* SS集 (鬼滅) *
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(ただの好奇心だったのに意外な展開になりました)
じぃ。
見つめる先は隣に座るお方の横顔。私の熱い視線に気付いた彼の琥珀の瞳は何事かと少し動揺を含ませながらこちらを見た。
「どうした。そんなに見られると穴が開きそうだ」
「いやぁ、ちょっと気になることがありまして」
「? もしや俺の顔にたれがついているのか」
私が視線を送っているのは今食べているみたらし団子のたれが顔についているからと勘違いされた煉獄さんは自身の手でごしごしと頬を拭う。
ごめんなさい、何もついてないです。とても綺麗に召し上がってます。何ならもう少し意地汚く召し上がってても可愛いと思います。
普段は柱として立派な姿勢を崩さない彼が、継子の私の前だと少しだけ気を許した姿を見せてくれるのは正直嬉しい。
愛しい、なんて思うことは烏滸がましいと重々承知している。だからこうして束の間の休息を共に過ごせるだけで十分だ。
なんてそんなことはさておき、やっぱり気になって仕方がない私は未だに勘違いをされている煉獄さんを差し置いてよいしょと身を乗り出す。
「む、これはどういう状況だ?」
突然距離を詰められた煉獄さんは顔こそ反応が見られないもののキュッと肩の力を入れたように見えた。手に持っていた団子をそっと皿に戻して、至近距離の煉獄さんの目と私のそれがぱちりとかち合う。
「ちょっとすみません、大人しくしててくださいね?」
うむ?と戸惑いながらじっとする煉獄さん可愛いなぁ、なんて思いながら、手を伸ばし人差し指でそっと優しく引っ掻かないように彼の凛々しく吊り上がる眉毛に触れる。
そんな場所を触られると思っていなかった煉獄さんの眉がピクンと動いた。
「何を……っ」
さすがに何をするのかと焦りを含んだ声が聞こえたのと同時に、人差し指にくっと力を入れ両眉尻を下に引き下げた。
「わーーっやっぱり!師範の眉尻、下げると千くんとそっくりですね!」
「…なるほど、気になるというのはそれか」
「はい、お二方はとても似てらっしゃると思ったのでついこんなことを」
眉一つでこんなにも印象が変わるなんて知らなかったな。ハの字になった煉獄さんの表情はいつもより柔らかな印象。それもまた新鮮で素敵だな、と思ってしまった。
こうして触れることも貴重だとしばらく煉獄さんの眉をくいくい弄って楽しんでいると、両腕をあっさり絡め取られた。
視線を降ろすと真っ直ぐこちらを見る煉獄さんの瞳が私を射抜いて、どきりと胸が高鳴る。
そう言えば眉毛に集中し過ぎて見えていなかったけど、今になって気付いた。この体勢、中々大胆なのではないか。遅れて動揺しだす私に、煉獄さんはさらに追い打ちをかける。
「千寿郎のように下がり眉の方が君の好みなのか?」
「なっ!」
あざとく眉をハの字にさせて、まるで子犬のような表情で下から覗かれ思わずヴッと息を詰まらせた。師範、そんな顔できたんですか…!
完全に不意打ちを食らって掴まれた腕が熱く感じる。あろうことか顔まで火照ってきた。大変だ、私ってば思っていた以上にこの表情に弱いようだ。
「好みって言うか、師範のその顔はちょっと心臓に悪いかも、です」
「俺だけなのは何故だ!」
「それは言えません!師弟関係に支障をきたす可能性がありますので!」
「よもや!」
「この話は終わりですね!では、先に私は戻っていますので!」
その場に居たたまれなくなった私は無理矢理話を区切り、急いで煉獄さんから離れいそいそと帰り支度をする。
しかし、帰ろうとしたその手は煉獄さんの大きな手によって身動きが取れなくされた。
「まだ終わりだと俺は言っていないだろう。続きは教えてくれないのか」
「だから、さっきも言いました通り…ってうわぁっ!」
言い終わる前に腕を強い力で引っ張られ体勢を崩した身体は煉獄さんの腕に流れるように飛び込んだ。軽々と抱き留められ、今度は私が煉獄さんの顔を見上げる形になる。逆光で影になった煉獄さんの表情は幾分か楽し気に笑っているように見えた。
「し、師範!」
「もう話してくれないのか?」
ここでまたあの下がり眉攻撃が襲ってきた。この人分かっててやってるな!意外に意地の悪いお方だ。
「ぐぅ…っ今その顔は反則です!」
目をぎゅっと瞑ってこれ以上その表情を見ないようにすると、ふっと微かに笑う声だけが耳に入る。
「安心してくれ、何を言われても俺は君を離すつもりはないよ」
ああもう、そんな優しい声でそんな言葉を言われて絆されないわけがない。でも瞑った目を開ける勇気も今はない。
どうせ、視界に広がる彼の笑顔に結局何も言えなくなるに決まっているから、もう少し気持ちを整理してから瞼を開けさせてください。