* SS集 (鬼滅) *
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(彼氏を癒したいプラン実行!)
「ただいま」
リビングで一人ノートパソコンに向かって持ち帰った仕事をこなしながら今日も帰りの遅い恋人の帰りを待っていると、玄関の方からまるで覇気のない声が聞こえた。これは明らかにお疲れモードだな、と考えながら扉の方へ振り返る。
「錆兎おかえり~~今日も遅かったね」
「ああ、繁忙期だからな…」
ふぅ、と一息つきながらネクタイを緩める姿はいつ見ても様になっている。就職してからは肩まである髪を一つに束ねるようになって、それも普段と雰囲気が変わって格好良いからちょっと落ち着かない。きっと職場の女性たちが錆兎を放っておかないだろうから。この間もバレンタインチョコ貰って帰って来てたし、そりゃあモテるよね。私の彼氏です~って全員に言って回りたい気分だわ。
「お疲れ様、お風呂湧いてるよ」
ご飯も用意してあるよ、と言うと錆兎は「サンキュ」と嬉しそうに微笑んで脱衣所へ向かった。何時まで経っても不意に見せてくるあの笑みにとことん弱い。もう付き合って数年経つし、こうして同棲もしているのにいつまでもドキドキさせられてしまうから困る。
……そんなことはさておき、錆兎が上がってくるまでに目の前の仕事を早く終わらせてしまおうかね。
「はぁ~スッキリした」
数十分程して錆兎がスウェット姿で戻ってきた。少し湿った髪をタオルドライして、こんなラフな姿を見れるのは恋人である私の特権。
「お疲れの錆兎くん、髪の毛乾かしてあげる」
「お、助かる」
仕事を早々に終わらせたのはこの為でもある。私の前に背を向けて座ってじっと待つ姿が何度見ても可愛いんだもの。綺麗な宍色の髪に触れるのも好き。ドライヤーで乾かした髪はふわふわしてて、ずっと触っていたくなる。お疲れの錆兎に色々してあげたいとか言っといてちゃっかり私も癒されている。錆兎からも小さく鼻歌が聞こえてくるから、きっと気持ちいいんだよね。それだけで私も嬉しくなる。
「はいっできた!」
「ありがとな~」
「さて、今日は週末だから特別。もう一つやって欲しいことない?」
こうなったらとことん癒してあげよう。と言うのは口実で、平日忙しくて中々スキンシップが取れなかったからもうちょっとだけ触れていたかったっていう私の我が侭。そんな邪な思いを抱いた私の提案に、錆兎は少しだけうーん、と考えた後一つの希望を口にした。
「…珍しいね、錆兎が膝枕をご所望なんて」
「たまにはいいだろ」
『膝枕されながら寝たい』なんて付き合ってから一度も言われたことがなかった。言われた時は正直予想外過ぎて一瞬止まってしまったけど、珍しく錆兎が目に見えて甘えてくることが嬉しくて二つ返事で引き受けた。
ベッドの上で、ラフに座る私の膝に錆兎の頭がポスンと乗る。乾かしたばかりの髪がさわさわとして擽ったい。
「こんなのでいいの?」
「……思ったよりいい」
少し照れた様子で、ほんのり頬を染めている様子が薄暗い部屋でもなんとなく分かる。慣れない行為に私まで照れてしまいそうだから、照れ隠しに錆兎の前髪を掻き分けるように撫でた。心地良かったのか目を細めて、時折お腹辺りにぐりぐりと顔を擦りつけてくる。ちょっと、何この可愛い生き物。驚くほど甘えてくるんですけど。よっぽど疲れていたんだろうか。
「今日の錆兎、可愛い」
「うるさい」
可愛いなんて言うな、と拗ねたような声にまたふふっと笑みがこぼれた。思いが溢れてずっと錆兎の髪を触り続けていると、徐々に彼の動きが鈍くなってくる。そろそろ眠くなってきたかな?と錆兎の顔を覗き込むと、その目は意外にもぱっちり開いていた。しかもこっちをじーっと眺めていたことに気付く。
「ねぇ、そんなに見られたら落ち着かないんだけど」
「お前、睫毛長いな」
「この暗闇でよく見えるね?」
「ずっと見てたら目が慣れてきた」
「慣れてそこまで見れるもの?」
たまに錆兎って常人とはかけ離れた身体能力を見せる時があって驚かされる。すると、ずっと大人しくしていた錆兎の手がふと私の首筋に伸びて、触れた瞬間ぴくっと反応してしまった。
「ここ、ほくろがあるの知らなかった」
「ちょ、急に触るからビックリしちゃった」
「膝枕してもらわないと見えないな、これ」
ははっと無邪気に笑われてまた胸がきゅんっと締め付けられた。また不意打ち、ずるい。
「もう、そんなとこ見なくていいから寝なよ、疲れてるんでしょう?」
「んーー、アレしてもらわないと寝れないな」
「アレ?」
「そ、アレ」
さっきまで緩んでいた表情は突然ニヤリとしたり顔に変わった。首筋に触れていた手が私の後頭部に移動して、くいっと下に引き寄せられる。
その瞬間、チュっと音を立てて柔らかいものが唇に触れた。
「なるほど~」
これには私も驚いたものの満更でもなくて、そういうことでしたら何度でもと言うように再度錆兎に口付けた。一回、二回、と繰り返されるキスは徐々に濃厚なものに変わっていって——
「だめだ、寝れるわけがない!」
結局、ガバリと起き上がった錆兎に今度は私が押し倒されて、疲れているはずの身体に更に疲労を重ねる結果となった。
それでも翌朝の錆兎はすっきりした様子だったし、私の『錆兎を癒してあげたいプラン』は結果オーライということなんだろうか。