* SS集 (鬼滅) *
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(どういう事か教えて!)
「ねぇ義勇~!相談があるんだけど」
任務帰りの同僚をつかまえてまでする話ではないのは重々承知してる。だけど思い立ったらすぐ行動な性格の私は蝶屋敷から出てくる水柱を見つけるなり声をかけた。
義勇は私に気付くと表情一つ変えずにこちらを振り向く。
「何だ」
「錆兎のことでちょっと…」
そう言うと珍しく義勇の眉がピクリと動く。錆兎の話になると反応するのよね、この人。余程好きなんだろうな。仲が良いのは良いことよ。
ここで話すのもなんだしお茶でもと誘うと彼は小さく頷いて素直に着いてきた。
「…錆兎が冷たい?」
みたらし団子が美味しいと有名の甘味処で名物の団子とほうじ茶に口をつける前に義勇は私の言葉をそのまま繰り返した。私はもぐもぐと団子を頬張りながらこくりと頷く。
「そ、なーんか素っ気ないというか何というか。前までは声を掛けても笑って返事してくれたのに最近は目を逸らすし、返事も淡々としてるし」
「怒らせたのか」
「え!やっぱ怒ってんのかなぁ。全く心当たりないんだけど」
両手を上げて何も分からない仕草をすると義勇ははぁ、と溜息を吐いた。
「気のせいだ」と言うことで話を勝手に片付けた義勇は団子にようやく口をつける。食べながら話出来ないって前から言ってたもんね。まあ義勇に気のせいだと言われたらやっぱりそうなのかなぁ。
うーん、それともいつの間にか錆兎を怒らすようなことをしてしまっていたのかもしれないし。
あ、前に一緒に食事した時に好物取っちゃったの根に持ってたりするかも。それとも一緒に行った任務で足引っ張ったことかな。些細なことを思い返せば小さな心当たりが沢山出てきて少しずつ焦りが生まれる。
これは、早く錆兎に謝らなきゃいけない案件かもしれない。無意識にうんうん唸っていると、団子を食べていた義勇がぼそりと口を開いた。
「安心しろ、錆兎はお前を嫌っていない」
「……へ?」
「錆兎はお前を「お前たちここで何を話している?」
義勇の言葉が突然聞き覚えのある声に遮られ、上を見上げると鮮やかな宍色が目に入った。この髪色の人物は一人しか思い当たらなくて、咄嗟にその名前を叫ぶ。
「錆兎!」
「俺の話をしているように聞こえたんだが」
「ああ、この子がお前の事で悩んでいたらしいからな」
「ちょ、義勇!」
もう!素直にそこまで言わなくてもいいのに。慌てる心を抑えてじとりと義勇を睨むと彼は相変わらず顔色一つ変えない。どういうつもりか全然読めないんですが。
すると突然、何故か錆兎に私の腕をぐっと掴まれ無理矢理椅子から立ち上がらされた。
「わぁっ!何!」
「義勇、悪いがこいつ借りるぞ」
「ああ」
昔馴染みの二人はお互いの思考がよく分かるのか少ない言葉で目線で語り合う。仲が宜しいのは良いけど勝手に話を進めるんじゃない。
そんな私の思いはお構いなしに錆兎は掴んだままの腕を離さずに私を店の外まで引きずっていく。黙ってずんずん歩く錆兎がちょっと怖く感じる。やっぱり怒ってるんじゃん。
人気の少ない路地裏まで来た所でようやく止まり、錆兎の手の力が少し緩んだ。とてもじゃないけど明るい雰囲気じゃなくて、こちらを振り向いた錆兎を直視できない。
「さっきの「ごめん!!!!!」……は?」
耐え切れなくなった私は錆兎の言葉を遮って叫ぶ。気圧された錆兎は一瞬目を瞬かせた後、意味が理解できていない様子で眉を寄せた。
「……何の謝罪なんだ?」
「だって錆兎、何か怒ってるみたいだったし、私のせいなら謝らなきゃと」
「何も怒っていないんだが」
「いーやいつもと違う!最近全然目を合わせてくれない!」
「そ、それは……」
突っ込まれたくない話だったのか歯切れの悪い返事をした錆兎はまたすっと視線を横に逸らす。怒っていないならこの態度は一体何なんだ。
「私の事嫌いになったならそう言ってよ、何も知らずに冷たくされたら寂しいじゃん」
言葉にすると余計に悲しくなって、つい目頭が熱くなるのを耐えながら俯いた。
錆兎は私の事を友と思ってくれていなかったのだとしたら辛いなぁ。でもこれも縁だから仕方がないのかな。
次に何を言われるのか覚悟を決めて目をぎゅっと瞑った時、錆兎の小さな溜息の音が耳に入ってびくりと体を震わせた。
「嫌いになんてなるわけないだろう」
「それ、嘘じゃない?」
「俺が嘘なんてつくか、本当だ……むしろ」
むしろ何?と聞こうとして顔を上げた瞬間、錆兎の両手が私の頬を包んだ。すっぽり覆える程の大きくて温かい男の人の手の感触に胸が少し熱くなる。
錆兎の手によって固定された視線は彼の瞳とかち合って、久しぶりに錆兎の目をまともに見たなぁ…なんて考えていたら、そっと柔く唇に何かが触れた。
「……え?」
突然のことに瞬きすることも忘れて止まってしまった私から錆兎はすっと体を離した。
そこには顔を真っ赤に染めて視線を逸らす錆兎の顔。
「だから目を合わせたくなかったんだ…」
錆兎の小さな呟き私の耳にはしっかり入っていたけど、「頭冷やしてくる」と一言吐いて踵を返し走り去っていく彼の背中をただ目を見開いて眺める事しかできず。
「……え、え??」
数刻経っても口から出てきた言葉はそれだけで、結局頭を冷やした錆兎が再び迎えにくるまでその場に立ち尽くしていた。
あのう、相談案件が更に増えた気がするのは、私だけ?