* SS集 (鬼滅) *
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(それぞれの想いを抱いて)
「さーて、残ってるやつは…っと」
夜明けが近づき林の中でも暗闇が次第に明るさを帯びてくる時間、目的の鬼を討伐した隊士達の治療及び搬送を行う為に隠の面々が慌ただしく走り回る。
ある程度の処理が終わり、隠の一員である後藤は他に見落とした者がいないか辺りを見回した。
すると草木の間に微かな気配を感じて遠目からそこを凝視する。
かつては鬼殺隊士として剣を振るってきたのだから、この勘は当たっていると信じたい。
かといえ、鬼か人間かも分からないので慎重にそこに歩み寄る。
生い茂った草を掻き分けた先を見つめると、そこに小さな黒い物体が見えた。
それは誰かの背中のようで、『滅』という字が見えたところで、後藤は目の前の人物が鬼ではないことに胸を撫で下ろし声を掛ける。
「おい、そんなとこに隠れて何してんだよ」
明らかに身を潜めている様子に後藤は不思議に思った。体を小さく丸めて、まるで誰にも見つかりたくないかのような姿。
身体の作りからして恐らく女隊士だろうか。彼女の傍で片膝をつき、ポンと肩を叩くと彼女は体をビクッと大きく跳ねさせた。
「あ、あの、私一人で帰れるので、大丈夫です…」
「いや、声震えてるじゃねーか。どこか怪我してんだろ」
「大丈夫です!これは罰なので!」
「は?」
突然の大きな声に後藤は驚愕する。
すると彼女はカタカタと震えながら自身の体をぎゅっと抱き締め、ボロボロと大粒の涙を流し出した。
「鬼、強くて、皆必死に戦っているのに、私、何一つ太刀打ちできなくて…」
仲間の誰かが死ぬのを目の当たりにしたのだろうか。自分を情けなく思ったのだろうか、大方そんなところだろう。こういう場面は何度も見てきた。
唇をギリッと噛み締め自身の無力さに打ちひしがれて、挫折しそうになっている彼女に後藤は怠そうに深く溜息をついた。
正直、仕事はちゃんとこなすがこういう相談の類はどうにも面倒で苦手だ。
「お前、階級は?」
「……甲、です…」
「まさか、今回が初任務か?」
後藤の問いに、女は小さく頷いた。
初任務が必ずしも優しいものとは限らないが、いざこれからという時に仲間の死を目の当たりにしたのは気の毒だったと思う。
後藤は頭をがりがり掻き、背を向けたままの彼女の真正面に回り再び片膝をついた。
「足、血が出てる。ほら、おぶってやるから」
「だから、だい、じょうぶです」
「うるせぇよ。お前が大丈夫でも、俺らは怪我した隊士の世話すんのが仕事だ」
黙って乗れ、と厳しめに促され彼女はおずおずとその背に乗りかかる。その体は思ったよりも軽かった。
彼女をおぶさったままスッと立ち上がり、他の隠達が待つ場所へゆっくり歩き出す。
茂みを抜けると、もう既に夜は明けており朝日の光が煌々と二人を照らした。
「お前が何を見て苦しんでるのかは俺には分からないが」
「……?」
「鬼が死んで、お前が生きてるってことは、俺たちにとって十分希望になるんだぜ」
それだけは忘れんなよと呟くと彼女は押し黙ったが、微かに鼻を啜る音が聞こえる。
隠は戦力として闘いの場に出向くことは殆ど無い。だから前線で身を賭して闘う隊士達の安否を切に願うしかできないことがそれだけ心苦しいものか。
俺から言えた言葉ではないのは分かっていたが、彼女にはどうしても伝えたかった。
「死んだ仲間の分も、お前が生きて、闘えよ」
「……はいっ」
それは震えた涙声だが、さっきまでの声とは別物かと思う程の芯のある返事だった。
後藤はもう大丈夫そうだと安堵し、歩めるスピードを少しずつ早める。
彼女の怪我をいち早く治療する為、そして次の闘いに繋げる為。鬼殺隊士に立ち止まっている暇はない。
そこら中に蔓延る鬼を殲滅するまでは、前を向くしかないのだ。
隠の仕事はこんなケアまで担うのか。
それでも隊士が闘っている以上、それも致し方ないと後藤は再び怠そうに溜息を吐いた。