* SS集 (鬼滅) *
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(真夏の青春は王道に決定!)
「うぇ~~~暑い~疲れた~帰ってもいい~?」
プールの底にうっすら張られた水に足を突っ込んでも、それすら太陽の熱で温くなってむしろ熱いくらい。
こんな暑い夏を乗り切るためプール授業が行われるというのに、準備の段階で熱中症になってしまっては元も子もない。未だかつてそんな事例はないと言っても、今日の炎天下は容赦なく私たちの体力を奪っていって思わず倒れそうだと愚痴を零してしまう。
残念なことに私の愚痴を聞く羽目になった目の前の男子——クラスメイトの錆兎は、いつもは下ろした宍色の髪をきゅっと一つに束ね整った顔を見せびらかしながらはぁっと呆れたような表情を浮かべた。
「プール掃除は毎年体育委員の仕事なんだからちゃんとやれよ、前から分かってたことだろ」
「そうだけどこんなあっつい日にやることないじゃん~」
ぶーぶー言いながらデッキブラシの柄に顎を置いて項垂れる私に、錆兎ははあっと深い溜息を吐いた。
こうしている内にも時間は刻々と過ぎていくし、自分も動かないと終わるものも終わらないのは十分分かっているんだけど。暑さにめっきり弱い私は錆兎と一緒にやりたいからって軽率に体育委員に立候補したことを今猛烈に後悔している。恋より今はこの暑さをなんとかしたい。
「はぁ……アイス食べたい」
「そういえば、これが終ったら宇髄先生が皆にアイス買ってくれるって言ってたな」
「え!!ほんとに!?」
ナイスうずてん先生!そんなご褒美が待っているならこんな作業早く終わらせて冷たいアイスにありつきたい。さっきまで重たくて全く動かなかった顎をひょいと持ち上げると「チョロい奴」と錆兎に軽く笑われた。うるせーやい!
そんな錆兎のいつもは隠れている首筋にもつぅっと汗が垂れている。そりゃそうか、彼も暑いんだ。カッターシャツの首元が少しはだけ、濡れないようにズボンの裾が折られてて、いつもより着崩された姿にドキッと胸が跳ねる。
なんか、真夏の青い空がバックになってすごく輝いて見えるから思わずゴクリと唾を飲んだ。こんな珍しい錆兎の姿を見れるのなら、体育委員になった甲斐があったってもんよ。我ながら現金な奴、とは思うけど。
「よーし、早く終わらせてハーゲンダッツ買ってもらうんだー!」
「さすがにそれはないと……あっ」
「え?……ぶっっ」
体育委員になって良かったなんて思ったさっきまでの私の馬鹿。浮かれ気分になったのは一瞬で、錆兎が何かに気付いた顔をした瞬間、後ろからものすごい衝撃が襲った。一瞬何が起こったのか理解できなかったけど、その衝撃の正体が大量の水だと分かったのは後ろから他の体育委員が「わー!ごめーん!」と叫ぶ声を聞いてからだった。
「大丈夫か?!」
錆兎が慌てた様子で私の元に走り寄ってくるけど、頭までモロに被ったからぽたぽたと滴る水が視界を邪魔してハッキリ見えない。
「暑いとは言ったけどまさか水を被らされることになるとは……」
「ごめんねー!ちゃんと見ないで出しちゃったから……」
「あ、いえ大丈夫です~」
「ちょっと待ってろ、タオル持ってきて……っ」
申し訳なさげに寄ってきた委員の女子とやり取りをしている間に錆兎が拭くものを取りにいこうとするが、何故か急に錆兎の言葉が途切れて、微かに息を飲む様な音が耳に入った。
不思議に思った私は濡れた前髪を掻き分けて錆兎を見ると彼は突然、おもむろに自身のシャツを脱ぎ始め黒いスポーツインナー姿の上半身が露わにさせた。
インナー越しでも分かる程鍛えられた体を不意打ちに見せられ思わず「ひぇっ!」と悲鳴を上げてしまう。何をするのかと言う前に彼はそのシャツを私の肩にかけて、思わず全身がビタリと固まった。
「お前、これ着てろ!」
「え、何!?」
「いいから!」
意味が分からないままシャツを羽織った私を確認した錆兎はすぐに振り返ってプールの外へ今度こそタオルを求めて走り出した。その時、微かに彼の顔が赤く染まっていたような気がしたのは、気のせいかな……?
ふんわりと掛けられた錆兎のカッターシャツはすっぽりと私の上半身を覆い隠し、錆兎の香りが容赦なく私の鼻腔に纏わりついて刺激する。これは、やばい。心臓がバクバクと大きく早鐘を打って、顔が熱くなっていく。
まさか錆兎、濡れた私の体が冷えないようにシャツを掛けてくれたのかな?そうなら十分温まってるよ、別の意味で。
「むしろ暑いくらいなんだけど……」
「え、気付いてないの?」
このジメジメした暑さの中服を二枚も着たら余計に熱が篭るよ、と項垂れると隣にいた他の委員がキョトンとした表情で私を見た。え?と目だけで問うと、彼女は「ここ、誰にも見せたくなかったんじゃない?」と今度は少しにやついた顔で私の胸元を指をさす。意味が分からず視線を自分の胸元に移すと、その原因をすぐに理解してぶわわっと音が立ちそうな勢いで体中が沸騰した。
「わーー!!!!」
さっきまで錆兎の香りがどうのと浮かれていた自分をひっぱたきたい。濡れて下着まで透けてしまった胸元を彼のシャツで思い切り隠してしゃがみ込む。これを皆に全部見られていたらと思うとぞっとした。機転をきかしてくれた錆兎には感謝しかない。
さっき赤くなっていた錆兎の顔を思い出して、帰ってきたら何て顔をしたらいいんだと考えたら羞恥で逃げ出したい気分になる。
だけど、見られたのが彼で良かったなんて思う自分は夏の暑さでのぼせちゃってるのかな。