* SS集 (鬼滅) *
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(ギャップ王子は今日も私をころしてくる)
今日も至って普通の休日。
まだ暗い部屋に気持ちいいくらいの朝日がカーテンの隙間と言う隙間から差し込んで自然と目が覚めた。
ゴロゴロしながらいつもよりゆっくりめの時間に起きて、のんびりと平日より少し豪華な朝食をとって、こんな時間を過ごせるのはこの貴重な休日だけ。
それから窓を全開にして朝の清々しい空気を目一杯吸い込んだら一週間分の汚れをまとめて掃除。溜め込んだ洗濯物も全て干してしまえば、午前中の私の仕事は終了。
この時点で時刻は昼前だけどさっき朝食をとったばかりだったからまだお腹は空腹の鐘を鳴らしていない。昼食はもう少し後でいいかなんて思っていたら、途端にすることがなくなってしまった。暇だ。どうしよう、テレビをつけても今面白い番組がないし、ゲームをするにもパートナーがいないとつまらない。
「錆兎は今仕事中だしなぁ……」
絶賛同棲中の彼氏は朝食をとって後持ち帰りの仕事があると言って今一人自室に籠っている。昼食を遅らせる代わりにコーヒーでも入れてあげようとコーヒーメーカーの電源を押して錆兎と自分と二人分のコーヒーを入れた。テレビもつけていないからリビングがシン、と静かだ。
ここに居ない錆兎のことを思いながら、折角の休みなのに大変だなぁと労う気持ちと、折角の休みなんだからもっと構って欲しいという我儘心が胸の奥でせめぎ合う。昨日もお互い疲れてすぐ寝ちゃって碌に触れられてないから尚更なんだろうけど、少しだけ寂しく思うのは仕方ないことだよね。
もう一緒に暮らし始めて長いしこれまで色んな錆兎を見てきたけど、彼を好きな気持ちはずっと衰えることは無いしむしろ増していくばかりだからすごい。
「錆兎、コーヒー飲む?」
「……ああ、もらう」
コンコンとドアをノックして部屋の中に入ると、机に張り付く錆兎の背中が目に入った。カタカタとタイピング音だけが聞こえて集中している様子が見て取れる。さすがに邪魔をするのも悪いかと思って、そっと机の端にマグカップを置いてすぐ退室しようと一歩後ずさると画面に向いていた錆兎の視線がふいっとこちらを向いた。
その瞬間、驚くものを見た私の瞳はこれでもかと大きく見開いた。それはもう、どでかく。
「ありがとう、もう少しで終わるから——」
「あ、え、わーっ!!」
「……どうした?!」
私が突然素っ頓狂な声を上げたものだから、錆兎も思わず動揺の声を出す。パクパクと口を魚のように動かす私は、まるでネジの取れたロボットのように挙動不審だ。
「め……っ」
「め?なんだ?」
「めがね!かけてるとこ初めて見た!」
後ろに倒れてしまうんではないかと思うくらい覚束無い足取りで数歩後ろに下がり、眩しいと言わんばかりに手で目を覆う。
付き合って云年、私は錆兎の眼鏡姿なんてこれまで一度も見たことが無い。まさに未知との遭遇だ。そんなものを不意打ちで食らってしまったら謎のリアクションも取りたくなってしまうだろう。
錆兎は長年の付き合いからそんな私の反応は見慣れているようで、少し呆れた顔をしつつもそこまで動じることはなく「ああ……」と落ち着いて返事をした。
「最近仕事中の時だけ掛けるようにしたんだ」
「似合うか?」と眼鏡を少しずらして、私に見せつけるように近づいてくる錆兎の表情は揶揄おうとしている時のそれ。でもあまりに顔が良すぎて私は躱すこともままならない。
「ひぃー似合う。すっごく似合ってて直視できない!」
「そんなに?」
普段眼鏡なんて掛けるイメージが全くない錆兎の眼鏡姿なんて貴重以外の何物でもないし、もうお互いの姿も見尽くしてきたであろう時にこんなギャップを見せられるとは思わなかった。神様今日も私の恋人はこんなにも格好良いですありがとうございます!
「……拝むな」
「あ、つい無意識で、ごめん」
さすがに拝まれるのは嫌だったみたいで、訝し気な表情で私を睨むものだからいつの間にか合わせていた手をそっと降ろした。
「お前がそんなに眼鏡が好きとは知らなかったな」
「いや世の女の子みんな好きだと思うよ」
特にこんなイケメンの眼鏡姿なんて、それをおかずにご飯三杯は余裕です。なんて鼻息荒めに宣言してしまった。錆兎は「そんなわけあるか」と冷静に私のおでこを小突く。つい興奮しすぎてしまったとこっそり反省していると、錆兎は突然押し黙って何かを考え始め、そしてにやりと意味深に笑った。それすら半目で見ている私は相当気持ち悪い。
「じゃあ、今日一日眼鏡でいるか」
「え、」
なんと、それは一日私は息をしていられるのだろうか。今ですらまともに吸えていないのに。でも、普段の錆兎も大好きだけどたまにはいつもと違う姿の彼と刺激的な一日を過ごすのも悪くはないかもしれない。いや、むしろ最高だ。私の命、頑張れ!
「もちろん、夜もな」
「え?」
「あ、なんなら今からでもいいけど」
「ええ?」
何が、と聞く前にふわりと浮上する私の体。横抱きにされたと気付いたのは、彼の眼鏡が急に至近距離に現れたから。
仕事は!?と問うことも出来ないまま、向かうは寝室の方向。昼食もまだなのに今から何する気ですかね!?
「俺だって、早く触れたかったんだからな」
錆兎も私と同じように思ってくれてたんだ、なんて嬉しい気持ちよりも気になってしまうのは近づいてくる錆兎の整った顔と、眼鏡。ああなんて破壊力。眩しくて勝手に目が閉じてしまう。私はまた新たな彼の姿を目に焼き付けることに成功しました。
とにかく私の命、もっと頑張って!!