* SS集 (鬼滅) *
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(初めてのなんとやら)
長年の想いを見事成就、なんて一言では済ませられないくらいここまで辿り着くのにそれはもうものすごく頑張った。
学校内で男女問わず人気のある先生のハツラツとした笑顔に心奪われるまでそう時間はかからなかった。最初はただの憧れ程度だったのに、気が付けばどんどんハマっていって冗談では済まないくらい好きになってた。
先生の近くに少しでも居たくて自分から教科係を買って出たし、準備室に行くたびに身だしなみには気を付けた。うざがられたくなくて出来るだけ距離を詰めすぎない様にしたり、アクティブな先生といつか一緒にスポーツ出来たらと思って筋トレも欠かさなかった。思えば充実な高校生活を送れたと思う。
そんな感謝の気持ちを含めて卒業式で思い切って告白した時は最後に当たって砕けろの精神だったのに、まさか「俺もだ!」なんてハッキリ言われた時には五分くらい思考が止まった。
私、明日死ぬんじゃないかなって思った。いや、あの時私は死んだのかもしれない。
だからね、今のこの状況もね、ほんと夢じゃないかって思ってるんですよ。
「コーヒーでいいか?」
「あ、はい。おかまいなく……」
部屋のソファはとても大きいのに、隅っこにちょこんと座って落ち着かなくソワソワする。キッチンに向かう先生の背中すら緊張で直視できない。
今まで何度か外で会うことはあったけど、『家に来るか?』と誘われたのは今日が初めて。先生の部屋に行ける!とその時は大はしゃぎしたけど、いざ来てみればその破壊力は半端ない。部屋中先生の匂いがして、もう早速クラクラしてきた。
きょろきょろと忙しない私にくすりと笑いながら先生は私にコーヒーの入ったマグカップを手渡してくる。わ、先生の私物……なんて興奮しちゃう私は紛れもなく変態だ。
「あああありがとう、ございます」
「そう緊張してくれるな、いつも通りでいいんだぞ!」
「えええん無理ですガチガチです煉獄先生~」
こんな刺激的な場所で普通にしてられる方法があるなら教えて欲しい。半泣きで訴えると先生は私の隣に座ってじわりと距離を詰める。じっと先生の大きな瞳が私を捉えて、ひぇ、と小さく声を上げた。
「そろそろ先生呼びは止めてくれないか? いけないことをしている気持ちになるんだが……」
いけないこと、と言われてピクンと肩が跳ねる。確かに私はもう卒業しているし、先生と生徒の関係はもう終わっている。だけど、だけど、なかなかその線を越える勇気が出ない自分がいる。煉獄さん、と言うだけなのに。ぐぬぬとうなる私も既にお見通しの先生は「ふむ、」と考えるポーズをする。
「ふむ、じゃあ今練習しよう」
「はい!?」
「ほら、呼ばないとくすぐるぞ!」
「え!まってくださ、わっ!あはッ、あははッ!やー!」
ズイっと距離を詰めた先生の手が私の脇腹を容赦なく擽る。何度も身を捩っても「さぁっ」とその手を止めることはなく変な笑い声が部屋に響いた。これでは呼ぶにも呼べないよ!
「わか、りました!あひゃッ、れん、れんごく、さんん!」
「よし、」
涙目でそう叫ぶと、脇腹を掴んでいた手がピタリと止まる。散々笑いすぎてはぁはぁと荒い息を吐く私を見て煉獄さんは満足そうに微笑んだ。
「うう、煉獄さんの意地悪」
目尻に溜まった涙を手で拭って視線を上げるとぱちりと先生の瞳とぶつかる。思ったよりも近くにあったそれに胸が激しく高鳴った。息が止まりそうなくらい煉獄さんの目が私を捉えて、徐々に近づくそれにごくりと生唾を飲む。
「え、あ……」
まさか、これって初キスの流れ……!?
願ってもない展開ですごく嬉しい、けど!やば、い、私、今朝何食べた!?
「ま、待って!!」
「ぐむッ」
焦った私は無意識に先生の口を自分の手で塞いでしまって、くぐもった声が隙間から洩れる。なんで、と言いたげな視線がちょっと痛い。
「ま、まだ心の準備が……」
もごもごとまごつく私の手を煉獄さんがやんわり掴んむ。思わず、この唇が私の……と煉獄さんの口を意識してしまう。うう、やっぱり私はド変態だ。徐々に熱くなる顔を見られたくなくてふぃと逸らすと、煉獄さんはくすっと微笑んだ。
「可愛いな、君は」
「あっ」
彼の手があっさり私の顎を捉える。もう片方の手は私の手をまだつかんで離さない。これじゃもう、避けられない。ドキドキと心臓が早鐘を鳴らす。
「れんごくさ、まっ」
「随分長く待たされたんだ、もう待たない」
私の言葉は、優しく触れる煉獄さんの唇にあっという間に飲み込まれた。そこからふわりと香るコーヒーの香り。
触れた彼の胸からはとくんとくんといつもより少し早い鼓動を感じて、ああ、彼も実は一緒か、なんて安心してそっと目を伏せた。
こんな幸せ、目を開けたらやっぱり夢でしたって、ないよねぇ?