* SS集 (鬼滅) *
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( 反則です )
「実の所、兄の事はどう思われているのですか?」
突然、台所で夕食の準備中、隣にいた千寿郎くんは鍋に火をかけながら私に向かってそう言った。覚束無いながらも包丁でじゃが芋の皮を剥いていた私は呆気に取られてうっかり手を切ってしまいそうになり慌てて手を止めた。
「わっととと、急に変なこと聞かないでよ千寿郎くん!」
「あっごめんなさい!少し気になっていたので…」
んん?そんなに気になるようなことあったかな?
全く心当たりのない上に、師匠である煉獄さんには尊敬はあっても恋慕を抱くようなことはないと継子としてここにお世話になり始めてからずっと考えていたから、千寿郎くんの質問にただ首を傾げるしかなかった。
「私の煉獄さんへの接し方、何か可笑しいかな?」
「いえ!そんなことは……むしろ兄の方が…」
「ん?」
「あ、何でもないですっ」
いやその言い方はとても気になる。いらないことを口走ってしまったと気まずそうな千寿郎くんに畳み掛けて問いただそうとしたけど、丁度鍋の湯が沸いたものだからその会話は無理矢理中断させられてしまった。
今は私が最も不得手とする料理を千寿郎君に教えて貰う為にここに立っているのだから、まずはそれに集中しなくては。しっかりやらないと今日の煉獄家の夕飯は悲惨なものになってしまう。
「では、ここで醤油と酒と味醂をお願いします」
「う、うん……っ」
恐る恐る分量を間違えないように調味料を鍋に流し入れる。これ一つにどれだけの気力を使っただろうか、後は煮込むだけになったところでふーっと深い息を吐いた。
「だ、大丈夫だよね!」
「はい、間違ってないと思いますよ」
「出来るまで不安……」
「ふふ、その間に風呂を沸かしてくるので鍋見ててください。少し経ったら味見して良いですから」
そう言うと千寿郎くんはパタパタと台所を去っていく。合間時間に他の家事をするなんて本当に働き者だと感心しかない。日々過ごしやすいのは間違いなく彼のお陰だ。感謝してもしきれないなと思いながら、グツグツと煮える鍋に視線を落とした。
「……そろそろ煮えてきたかな?」
気になって中の人参を菜箸で一つ掴みふーふーと冷ましながら口に入れる。
「んっおいひい」
教えてもらいながらとはいえ自分が味付けしたとは思えない美味しさに感動を覚えた。さすが千寿郎くん、作り方はちゃんと後で書に記しておこう。
丁度後ろから足跡が聞こえてきた。千寿郎くんが帰ってきたのだと張り切って煮物をまた一つ掴むと後ろを振り返る。
「ねぇねぇ!美味しくできたと思うんだけどどうかな…っ」
振り返って相手を見た瞬間、言葉に詰まる。千寿郎だと思っていた相手は似ているけど全く違う人で。その人は一瞬呆気に取られた顔をしたけどすぐにいつもの笑顔に変わった。
「ふむ、美味そうな匂いに釣られてな!」
「れ、れんごくさんっ」
「俺にも一口もらえるか」
えっ、と私が返事をするまでに煉獄さんは菜箸を持つ私の手をぎゅっと握りしめ、自身の口元に運んだ。ぱくりと箸の先にある煮えたじゃが芋を食べると、少し伏し目になった煉獄さんの整った顔が視界に入って一瞬どきりと心臓が跳ねる。
これは、さっき千寿郎くんに変な質問された所為だ。変に意識してしまって握られた手が異常に熱いように感じる。頼むから早く手を放してほしい。じゃないと、どんどん大きくなる自分の心臓の音を聞かれてしまいそうな気がした。
ゆっくり口を離した煉獄さんの瞳とかち合う。少し上目で見るその表情がとても美しくて、何とも言えない高揚した気持ちが込み上げた。
「うむ、美味い!」
いつものような元気な声が台所に響いて我に返る。私、今煉獄さんに見惚れていた?!
信じられないような気持ちを抱いたことに思考が追い付かないでいると、煉獄さんはいつもの調子で「夕飯が楽しみだ!」と満足げに笑う。
「しかしあれだ、傍から見るとまるで夫婦のようだな」
「へ?!」
突然言われた言葉に理解が遅れて変な声が出た。
煉獄さんは至極愉快そうに「冗談だ」と言い放ち、名残惜し気に手を離すと台所から去っていく。すると入れ替わりで帰ってきた千寿郎くんが、私の顔を見るなり驚愕した。
「あの、どうしたんですか、顔真っ赤ですよ?」
「ええええあれは反則……」
「?」
これでは嫌でも意識をしてしまいます!
台所ではしばらく、突然の心境変化に頭を抱える継子と状況が把握できなくて困る千寿郎が立ち尽くしていた。
〈完〉
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