Story.05≪Chapter.1-5≫

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時はまた1日が経ち、道化会による学院襲撃から3日目。

時刻は7時30分、ミシェルは生徒用玄関からサクレイド学院の屋内に入った直後、学院内のアナウンスによる呼び出しで2階にある『学院長室』に向かった。
こんな時に何の用だと思いそのドアの隣にある認証チェックを行ってから自動的に開かれるとそこには、ファウンダットだけでなく白いタブレット端末を持つアンヘルとセロンの姿があった。


「朝早くからすまんのう。さ、座りなさい」


にこやかに微笑むファウンダットに促され、ミシェルは向かい合う様に設置された二つの二人掛けのソファーの内の左側に座った。
同時にセロンが彼女の隣に、ファウンダットとアンヘルは逆側のソファーに座った所で、ファウンダットが先に口を開く。


「昨日の報告、少々無茶な行動は見られたが実に見事であった。新たな幹部の存在だけでなく、早々に学院内に潜むスパイの存在が発覚出来たからのう」

「それはどーも。……そんなんで呼び出したのか?」


まさか学院長自らがお礼を言う為ではないだろうと思っているミシェルに、アンヘルは白いタブレット端末を操作しては全員に見せた。
画面に映るのは、昨日の宿題の報告でミシェルが送った動画だった。


「ミシェル。僕達に見せたこの動画…、休み時間を利用して編集したんでしょ?一部、不自然なカットがあるってラウネ先生が言ってたよ」

「すまない、ミシェル。私はこの手の誤魔化しはどうも苦手でね…」


真剣な顔をするアンヘルと、これ以上は庇い切れないと思わせる様に右手で頭を抱えるセロンの一言に、ミシェルは溜め息を漏らすしかなかった。
リアンの口から学院内に裏切り者がいると聞かされた事を受け、このまま流すと自分に疑いが掛かるのではないかと感じて、不必要な部分は流さないようデータを改竄(かいざん)したからだ。
事前にチェックした時は映像や音声に一切の乱れはなく、誰も指摘して来ないだろうと思っていたのだが、情報学のラウネに見抜かれてはどうしようもない。
それにここにいる学院長と二人の教職員は、追い詰める為に呼び出したワケではない様なので、ここは素直に話す事にする。


「……昨日の朝の出来事をそのまま流せば、俺がスパイじゃないかって疑われると思ったんだ。特に、9年前の事を言われちまったらな」

「9年前…。この動画には確かにその話題はなかったね」

「ふむ。お主はその時の記憶を失い、本当の両親の顔も分からぬ。その状態で関与を否定した所で、“覚えていないだけだ”と言われるのじゃろう。だからその部分だけは切り取ったんじゃな?」

「……正解」


さすがはインヘイトディオスとして長年生き続け、創設当初から学院長を務めているだけあって一人の生徒の心境を見抜いてくるとは。


「そうなると、リアンという男はミシェルが記憶を失った9年前の事を知っている。…という事になりますね」

「そうじゃなぁ。だからといってそれが決め手となり、道化会のスパイとなったか否かは判断出来ぬ。首謀者の“仮面の悪魔”や会員達の正体すら掴めとらんし、ミシェルも難しい判断を迫られたのじゃろう。最悪、お主の本当の両親が関わっていたら一大事じゃ」


顔の分からない両親が道化会と関与しているという予想は、ミシェルも頭になかった。
ファウンダット達3人の教職員は彼女を疑おうとしたつもりはないのだが、話の流れからして徐々に不利に傾いている。


「マジかよ…。現時点で俺が一番疑われやすいって事じゃねぇか。道化会の事何も知らねぇのに…」

「僕もミシェルがスパイだとは思えません。ジャミングアーマーに内蔵された例の赤紫の結晶の事も知らない様でしたし」


ミシェルは9年前の記憶がない現実を受け止めながらも道化会との関与を否定し、アンヘルも彼女の言葉を支持した。


「9年前の事だけで、彼女にだけ疑惑の目を向けるのは良くないかと。他の生徒が集めた情報の中に、1年前のあの事件もありますから」


セロンはプロヴォーク家の長男が殺害された事件を取り上げつつ、可能性の幅を広げる事を提案した。
会員達の標的(ターゲット)はリヴマージであるものの、所属する目的は様々なのだから調査の範囲も狭めるべきではない。
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