Story.05≪Chapter.1-5≫
彼女は元々聖冥諸島の出身ではなく、西の大陸に位置する“魔法の国”の異名を持つ国の出身。
過去はその国の騎士という経歴を持ちながら新たに就職したサクレイド学院では、抜き打ちテストの一教科である魔法学の教師に加え、当時は1年目にして3年生の担任を受け持つ事になった。
最終学年になった生徒達は、誰もが次代を担う軍人になるであろうと各方面から高く評価され、カルマとプロヴォーク家の長男であるファーウェルもその一人だった。
とても明るい性格で相手が貴族であろうと関係なく接するカルマと、大人しい性格でありながら貴族の一人に恥じぬマナーの良さと賢さで好印象を持つファーウェルの仲は誰が見ても非常に良く、二人による言い争いも見ないくらいだ。
マーガレットからしてもカルマは自分に魔法に関する質疑応答をして来る程勉強熱心な面があり、ファーウェルは卒業後の進路相談をする所から、一人の教師として頼りにされているのを大変嬉しく思っていた。
彼らと初めて出会ってから数週間後、就任当初から見ていた二人の間に思わぬ大事件が発生した。
当時の1年生だったミシェル達の対戦を監視していたマーガレットの元に、3年生の監視役であるアンヘルから通信が入った。
―マーガレット先生、緊急事態です!ファーウェル対カルマの一戦で、ファーウェルが心臓部分から血を流して倒れました!こちらから呼び掛けても起きる気配はなく、意識もありません!現在、搬送先の病院で懸命に治療している所です!―
この知らせを聞いた瞬間戦慄が走り、マーガレットはもう一人の監視役に全てを任せてアイドライズにある≪シックキラー総合病院≫へと駆け走った。
対戦相手とはいえ、大の親友であるカルマが手に掛ける筈がない。
耳にした言葉は全て嘘であって欲しい、そう思って集中治療室の前に辿り着いた時には、全てが遅かった。
―我々が出来る事を、全てやり尽くしました。……ご臨終です……―
―…!?そ……そんな……!ファー…ウェル……!!―
―おい、嘘だろっ!?嘘だと言ってくれよ!!兄貴がこんな事で死ぬ筈がねぇ!!冗談はやめてくれよ!!なぁ…、頼む…!頼むから…まだ生きてるって……言ってくれよぉ……!兄貴……―
ファーウェルを治療していた医師から告げられた絶望の一言に、父親のロバートは膝から崩れ、弟のマグナは現実を受け入れられず医師に怒鳴っていた。
その姿を見た彼女は、重い足取りで集中治療室の中に入り、二度と目を覚まさない一人の生徒の身体を見つめた。
アンヘルの報告通り、心臓部分には血が滲み、握り締めた右手は完全に冷え切っていた。
サクレイド学院で教師として初めて出会ってから、1ヶ月も経たぬ内に永遠の別れが訪れてしまった。
勝手に入ってはいけないと医師達に引きずられて集中治療室から離れても、マーガレットはずっとファーウェルがいる方向を見つめていた。
―カルマ・T・レジスタント。有力貴族プロヴォーク家の長男、ファーウェル・E・プロヴォークを殺害した罪により、サクレイド学院の規則に基づき“追放”に処す―
それから数日後、ファーウェルの致命傷からカルマの所持属性である地属性の魔力が検出された事から、ファウンダットはカルマにそう告げた。
必死に殺してなんかいないと主張しながらも、二人の教職員達に追い出される教え子の姿に、マーガレットは言葉が出なかった。
一人の先生として生徒を信じたい、犯人は彼であって欲しくない、その想いがある反面、殺されたのは貴族の一員であり教え子の一人だからだ。
カルマを庇う事が出来なかった悔しさと、ファーウェルの命を守れなかった無念。
この二つの感情がマーガレットの心を痛め、絶望の淵へと追い込まれていた。
だが今こうして教師を続けていられたのは、先輩教師であり友人のアンヘルや学院長のファウンダット、そして他の教職員達の慰めや励ましの言葉があったからだ。
彼らも、過去に大切な人を亡くした、信じていた仲間に裏切られた、目の前で仲間同士の殺し合いがあったなど、数々の惨劇を乗り越えていたのだろう。
自分はかつて騎士であったにも関わらず、平和な国の一時を過ごしてばかりでこういう衝撃と絶望を味わった事がなかったから、今まで穏やかな生活に浸っていた事に甘さを感じていた。
しかしあの悲劇を目の当たりにしたからこそ、今度は今の教え子達である1年生を守らなくてはならない。
まだ未熟さがあり、周りに期待が掛かる程の実力を付けさせるには時間が掛かる生徒達の中に、亡きファーウェルの弟のマグナがいるのだから。
「だからこそ、もしカルマが本当に道化会に所属しているのであれば、何が何でも止めなくてはなりません。これ以上、学院内に犠牲者を出させない為にも」
意を決したマーガレットの一言に、他の教職員達は改めて道化会の壊滅と事件解決を強く意識させた。
過去はその国の騎士という経歴を持ちながら新たに就職したサクレイド学院では、抜き打ちテストの一教科である魔法学の教師に加え、当時は1年目にして3年生の担任を受け持つ事になった。
最終学年になった生徒達は、誰もが次代を担う軍人になるであろうと各方面から高く評価され、カルマとプロヴォーク家の長男であるファーウェルもその一人だった。
とても明るい性格で相手が貴族であろうと関係なく接するカルマと、大人しい性格でありながら貴族の一人に恥じぬマナーの良さと賢さで好印象を持つファーウェルの仲は誰が見ても非常に良く、二人による言い争いも見ないくらいだ。
マーガレットからしてもカルマは自分に魔法に関する質疑応答をして来る程勉強熱心な面があり、ファーウェルは卒業後の進路相談をする所から、一人の教師として頼りにされているのを大変嬉しく思っていた。
彼らと初めて出会ってから数週間後、就任当初から見ていた二人の間に思わぬ大事件が発生した。
当時の1年生だったミシェル達の対戦を監視していたマーガレットの元に、3年生の監視役であるアンヘルから通信が入った。
―マーガレット先生、緊急事態です!ファーウェル対カルマの一戦で、ファーウェルが心臓部分から血を流して倒れました!こちらから呼び掛けても起きる気配はなく、意識もありません!現在、搬送先の病院で懸命に治療している所です!―
この知らせを聞いた瞬間戦慄が走り、マーガレットはもう一人の監視役に全てを任せてアイドライズにある≪シックキラー総合病院≫へと駆け走った。
対戦相手とはいえ、大の親友であるカルマが手に掛ける筈がない。
耳にした言葉は全て嘘であって欲しい、そう思って集中治療室の前に辿り着いた時には、全てが遅かった。
―我々が出来る事を、全てやり尽くしました。……ご臨終です……―
―…!?そ……そんな……!ファー…ウェル……!!―
―おい、嘘だろっ!?嘘だと言ってくれよ!!兄貴がこんな事で死ぬ筈がねぇ!!冗談はやめてくれよ!!なぁ…、頼む…!頼むから…まだ生きてるって……言ってくれよぉ……!兄貴……―
ファーウェルを治療していた医師から告げられた絶望の一言に、父親のロバートは膝から崩れ、弟のマグナは現実を受け入れられず医師に怒鳴っていた。
その姿を見た彼女は、重い足取りで集中治療室の中に入り、二度と目を覚まさない一人の生徒の身体を見つめた。
アンヘルの報告通り、心臓部分には血が滲み、握り締めた右手は完全に冷え切っていた。
サクレイド学院で教師として初めて出会ってから、1ヶ月も経たぬ内に永遠の別れが訪れてしまった。
勝手に入ってはいけないと医師達に引きずられて集中治療室から離れても、マーガレットはずっとファーウェルがいる方向を見つめていた。
―カルマ・T・レジスタント。有力貴族プロヴォーク家の長男、ファーウェル・E・プロヴォークを殺害した罪により、サクレイド学院の規則に基づき“追放”に処す―
それから数日後、ファーウェルの致命傷からカルマの所持属性である地属性の魔力が検出された事から、ファウンダットはカルマにそう告げた。
必死に殺してなんかいないと主張しながらも、二人の教職員達に追い出される教え子の姿に、マーガレットは言葉が出なかった。
一人の先生として生徒を信じたい、犯人は彼であって欲しくない、その想いがある反面、殺されたのは貴族の一員であり教え子の一人だからだ。
カルマを庇う事が出来なかった悔しさと、ファーウェルの命を守れなかった無念。
この二つの感情がマーガレットの心を痛め、絶望の淵へと追い込まれていた。
だが今こうして教師を続けていられたのは、先輩教師であり友人のアンヘルや学院長のファウンダット、そして他の教職員達の慰めや励ましの言葉があったからだ。
彼らも、過去に大切な人を亡くした、信じていた仲間に裏切られた、目の前で仲間同士の殺し合いがあったなど、数々の惨劇を乗り越えていたのだろう。
自分はかつて騎士であったにも関わらず、平和な国の一時を過ごしてばかりでこういう衝撃と絶望を味わった事がなかったから、今まで穏やかな生活に浸っていた事に甘さを感じていた。
しかしあの悲劇を目の当たりにしたからこそ、今度は今の教え子達である1年生を守らなくてはならない。
まだ未熟さがあり、周りに期待が掛かる程の実力を付けさせるには時間が掛かる生徒達の中に、亡きファーウェルの弟のマグナがいるのだから。
「だからこそ、もしカルマが本当に道化会に所属しているのであれば、何が何でも止めなくてはなりません。これ以上、学院内に犠牲者を出させない為にも」
意を決したマーガレットの一言に、他の教職員達は改めて道化会の壊滅と事件解決を強く意識させた。