Story.05≪Chapter.1-5≫

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「はっはっはっ!無茶な事をしてくれる生徒がいると、アンヘル先生も大変じゃのう」


時刻は17時30分、≪サクレイド学院≫の2階、『教職員用会議室』では学院長であるファウンダットが全ての教職員を呼び出し、その者達による会議が行われている。
現在の話題は2年生が集めた道化会の情報、及び今朝の森で幹部であるリアンをミシェルが反撃した事が取り上げられている。
この件に関して笑い声を上げるファウンダットに、2年生の副担任のウォルフは不服そうな表情を浮かべていた。


「学院長、笑って済む話ですか?この女子生徒は、我々から戦闘の許可を得ずに攻撃したのです。視界に入らぬ所で一般の島民が紛れているかもしれないのに」

「じゃが、様々なサイトを見たらその様な書き込みは一つもなかった。ラウネ先生に予め確認を求めたが、削除された痕跡もないそうじゃな」

「はい。今日の6時から9時までの書き込みを中心に調べまして、復元や電脳の魔法の痕跡調査なども行いましたが何処にも」


仮にあの状況を隠れて見ていた島民がいたとなれば、一度でも掲示板や日記(ブログ)などを通してリアルタイムで書き込んでいた筈。
しかし3年生の担任であり情報学の教師であるラウネの協力の下、一通りネット上でのメッセージを閲覧した所、動画による実況も含めて拡散されている様子はないとの事。
それを聞いたアンヘルは、安心したかの様にホッと一息を付いた。


「実際に見られていたらどうなるかと思いました。では、この件に関するミシェルの処罰は如何でしょう」

「幹部の実力と殺意、そして彼女の若気の至りという事で不問じゃ」


笑みを浮かべるファウンダットの判断に、「それは良かった」と微笑むアンヘルに対し、ウォルフは気に入らないのか彼らから視線を逸らした。


「そんな彼女の無茶な行動のおかげで、いくつか分かった事がある」

「……会員全員が神子に対する殺意を抱いている。この学院内に道化会のスパイがいる、という事ですね」


他にもリアンの立場と目的を聞かされたが、教職員達が最も注目しているのは、アンヘルの後半の一言だった。


「生徒なのか、教職員なのかは分からぬが……残念な事に裏切り者が潜んでおるのは確かじゃ。一昨日、道化会が学院内のセキュリティを掻い潜り襲撃してきたのがその証拠」


サクレイド学院は、全ての教室や会議室などのドア付近に網膜認証と魔力チェックを行う事で入室を可能とする防犯システムを導入。
廊下にはカメラウィングと呼ばれる浮遊型監視カメラが10機以上配置され、不審者を発見しては静かに追跡し、その者の行動を録画する機能が備わっている。
他にも無断で学院内に入らせないよう、校門には魔法によるバリア機能も搭載され、まだ下校していない生徒達に甚大な被害を受ける事はない筈なのだ。
一昨日の事件を振り返るファウンダットは、セキュリティを突破された悔しさなのか、信頼出来る関係者の中に敵がいる事を知らなかった不甲斐なさなのかは分からないが、苦しそうな顔をしていた。


「そこで一つ気になったのが、1年前に起きた抜き打ちテストによる殺人事件じゃ」


すると話題は、プロヴォーク家の長男が殺害され一人の元生徒を追放させた事件に入った。


「2年生の中に一人、その事を調べた人がいましたね」

「3年生の方も3人発表者がいました。何故この学院を襲撃したのかが気になっていた様でして」


アンヘルはエリザベートが発表した事を告げ、ラウネも同じ様に報告をした。


「容疑者、カルマ・T・レジスタントの名は全ての有力貴族と防衛局、学院内でのみ公表が許されておるが、一般には伝わらぬよう既に呼び掛けた。それについての調査はくれぐれも慎重に」


カルマという男は今も未成年の為、実名を公にする事は禁じられている。
調査の難航を防ぐ為にも変に刺激させないようにとファウンダットが教職員達に釘を刺した所で、薄い桃色のカーディガンに白のワイシャツ、黄緑色のロングスカートを着てこげ茶のパンプスを履き、黄色い瞳を持ち腰まで伸ばした茶髪を一つのみつあみにした女性が俯いていた。


「マーガレット先生…。また彼が罪を犯すのを心苦しく思っている様じゃな?」

「追放したとはいえ、私の元教え子である事に変わりはありませんから…」


女性―マーガレット・F・コスモウォーカーは、この話題が出てから1年前の悲劇を思い出していた。
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