Story.05≪Chapter.1-5≫

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時刻は16時20分、ミシェルはリヴマージとエンドルと共に≪サクレイド学院≫を出て≪クロスラーン≫の街を歩いていた。
いつもならばレヴィンとカイザーが付いている筈だが、レヴィンはすぐに帰宅するよう父親のニールに命じられ、カイザーは怪物へと変貌した道化会の会員に関する新たな情報が入ったとの事で、ピュアリティ・クラウンの臨時会議に出席するとの事。
そんな彼らの代わりにミシェルが護衛として付く事になり、今に至る。


「ごめんね、付き合わせちゃって」

「気にすんな。俺の方も、師匠が職員会議に出るから修行がなかっただけさ」


リヴマージは四王座でもないのに託された彼女に謝罪の言葉を入れると、「神殿まで送るくらいどうって事ねぇ」と苦笑いを浮かべながら返された。


「そういえばミシェルって、5歳より前の記憶がないとか、元々両親がいないってエリザベートが言ってたけど、それは本当なのかい?」


するとエンドルから、ミシェルに関する様々な話の真相を問い質して来た。


「ああ、全部本当だ。両親がいないって言うより、“両親の顔が分からない”って言った方が正しいか」

「ピュアリティ・クラウンの関係者からは、9年前に森の中で怪我をして倒れていたって聞いたわ。命に別条はなく、今もこうして生きているから良かったんだけど、どうしてあそこで倒れていたのかが分からなくて、覚えていたのはミシェルの本名だけだったのよ」


ミシェルが若干の訂正を入れつつ肯定し、リヴマージによる追加の説明が入るとエンドルは驚きの表情を浮かべた。
名前は思い出せても、家族が何者なのかすら分からないのは会話においても不便そのもの。
周りは親という存在があるのに自分はいないとなれば、普通は孤独に感じるだろう。


「ま、防衛局が俺に色々と良くしてくれてるから、気持ち的にしんどいとかはないな。あるとすりゃ、剣術の修行くらいか」


しかしミシェルは記憶喪失という事実を苦にせず、面倒を見てくれているピュアリティ・クラウンの局員達に感謝している様だ。
その最後の言葉を聞くと、剣帝からの指導を想像して冷や汗を掻いたのはエンドル。


「セロン先生による指導はキツそうだなぁ…」

「そんなキツい修行を経て学院に通ってんだよ。……なのに昨日、俺が手合わせしたいって言ったのに断るなんざ、闘技場のチャンピオンとしてどうかしてるぜ」


そんな彼にミシェルは昨日、手合わせを希望したにも関わらず女子と戦うのは遠慮すると言われた事を根に持っているかの様に指摘した。
エンドルは「それは……その……」と言いづらそうな顔をして目を逸らすが、リヴマージが「まぁまぁ」と宥める。


「その時は、ミシェルがセロン先生の弟子だって事を知らなかったのよ。ほら、レヴィンとカイザーの実力は予め聞いてたみたいだし」

「カルロスの挑戦は受けたみてぇだが?」

「何となく女の子と戦う気分じゃなかったんだよ…。闘技場に通う前から色々あったからさ…」


どうやら理由があって女性との手合わせを避けていた様だが、エンドルはそれ以上の事は言わなかった。
どの様な経緯があって二度の優勝を果たしたのかが気になる所であるものの、彼の表情は実に言葉にしたくなさそうな雰囲気を漂わせていた。
今は何を聞いても無駄かと思いつつ、ミシェルは一息を付いてから話題を変える。


「しかし、俺がリアンを攻撃した事を指摘するなんてな。女と戦いたくないって言うから、てっきり女に優しくする奴かと思ったぜ」


それは6時限目の宿題の報告にて、ミシェルが見せた今朝の映像に関する出来事だった。
彼女の一言を聞くと、口を閉ざしていたエンドルが「あー、あれね」と反応した。


「違法行為をうやむやにさせたくなかったのもそうだけど、あの映像を見てたらミシェルは何だか…協調性っていうモノが足りなさそうに見えたんだ。この前みたいに電波が妨害されてたのを予想出来てたかもしれないけど、普通は誰かに連絡を入れるだろう?もしかしたら、運良く繋がるかもしれないのに」

「実際にリアンと対面しただけで分かった。ちょっとでも無駄な事をしたらまずいと思ってな。協調性の問題じゃねぇ」

「無駄な事って、通信もそれに入ってるのかい?」


あの時は一昨日の様に、ジャミングアーマーが電波を妨害させていた所を見た状況でなければ、リアンが電脳の魔法を使う姿も見ていない。
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