Story.05≪Chapter.1-5≫

出番が自分達に回ってきた時、リヴマージは交互にレヴィンとカイザーに目を合わせると、3人の代表として立ち上がった。


「私達は主に、クロスラーンで聞き込みに回りました。他の皆と同じくヘルマッドが怪しいという話を耳にしましたが、偶然私達を見掛けた1年の生徒からこの街の南東の方向に地下道を通る、変なデザインの仮面を被った人物を見たという話を聞きました」

「変なデザインの仮面?」


彼女の報告の最後にアンヘルが首を傾げると、カイザーはその時に撮影したという静止画があると伝えた。
それを彼自身の銀色のタブレット端末を利用してアンヘルのパソコンに送信し、先程の様に立体映像(ホログラム)を出してくれと頼み込んだ。


「こりゃまた初めて見る人物だね…」


アンヘルが目にしたのは、目の部分が丸く空いて口は微笑む様に曲線を描き、左半分が青で右半分が赤の仮面を装着し、髪や肌は一切露出させない様に全身に黒いローブに覆われた人物だ。
どの生徒の報告にもなかった新手の存在の立体映像(ホログラム)を出現させると、2年生の生徒達も初めて見た様な反応を見せる。


「エンドル殿、貴方もこの人物を?」

「はい、見掛けました。可能な範囲まで後を追ってみましたが、地下道の分かれ道を右に曲がった所で見失いました」


リヴマージ達と共にいたエンドルも目撃したと頷いたが、見失った後はこれ以上の捜索はせず、場所を把握して引き上げたと付け足した。
神子を連れている状況で無茶な探索は出来ず、またレヴィンとカイザーもクアトロ・レイドに勝てる程の実力はまだ身に付いていないと判断したのだろう。
その人物が幹部かどうかは分からない、だがそれ以前に道化会の総合的な戦力すら分からないままなので、4人はアンヘルの言い付けを素直に従ったと感じさせる。


「南東の地下道の先は、様々な遺跡が入り組んでいるとの報告があります。中には踏破遺跡と繋がっている場所もありますので、これも学院長と教職員の会議で判断します」


踏破遺跡とは、調査員や冒険家達が隅から隅まで探索し、財宝の持ち帰りとその遺跡に関する詳細の調査報告を多方面に伝えさせた事を意味する。
要するに調査済みの遺跡を示し、余程の事がない限り再調査の動きはないが、多くの遺跡が見つかったアイドライズではそこを緊急避難通路や緊急避難場所として使われる場所があるものの、ほとんどは訪れるメリットなど何処にもない。


「ですから下校途中、もしくは一度家に帰ってからそこを直接調べようだなんて考えないで下さい。安全かどうかは僕達が調べておきますから」

「誰も通らないからこそ、逃げた先が道化会の本拠地かもしれないって事ですね?」

「そういう事。その先についても簡易的な調査が完了次第、メールでお伝えします」


新たに言い付けを追加したアンヘルだが、エクセリオンに道化会の本拠地である可能性が示された時、エリザベートが一つの提案を出す。


「私も地下道の立入禁止をお父様に要請しておきますわ」

「えー?会員っぽい奴見つけても行っちゃいけねぇのかよー」

「本当に本拠地だったら余計危ないって意味だよ。“仮面の悪魔”は何者なのかも分かってないんだから、独断で行くのは良くない」

「エリザベート。それならしばらくの間、考古学者と冒険家達による遺跡調査の禁止をエクスプローラーギルドに求めるのはどうだろうか」

「アンヘル先生も、様々な遺跡が入り組んでいるとおっしゃってましたわね。分かりましたわ、エクセリオン様」


地下道の中が様々な遺跡と繋がっているのならば、そこも全て封鎖する事で会員を出させない策に出る様だ。
アンヘルもエリザベートとエクセリオンの案に頷き、これも学院長のファウンダットとビューティリス家の当主アロガント、ピュアリティ・クラウンの局長であるリコリスの相談の下で決めると返した。
学院を襲った犯行グループを抑えるのは良いが、これが後に考古学者達から反論が出そうな気がする。
歴史的な遺物は古代の知識、または財宝を得る事で調査に生きがいを感じている者も多いのだから。
…とはいえ、この学院の生徒である自分達には関係ないと思っていると、6時限目の終了を示すチャイムが鳴った。


「今回、皆さんが手に入れた数々の道化会の情報は、自警団と防衛局にも報告しておきます。また新たな情報が入りましたらお伝えしますね。皆さんも宿題というだけで終わろうとせず、引き続き無茶しない程度で聞き込みなどの調査をしてください」


道化会を壊滅させない限り平和な学院生活は送れない、そう思わせる様なアンヘルの発言と共に、話題は明日以降の予定と下校の挨拶へ変わった…。
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