Story.05≪Chapter.1-5≫

“戦うな”という言葉は一人で戦っても幹部には勝てない、戦闘になったら隠れて見ているであろう島民も巻き込まれる、そう思って言い付けたのだろうという意見。
攻撃する事で相手が使う技や術の情報が得られる、回避を続けたが死を直感して止むを得ず手が出てしまった、これはミシェルを責められないという意見が寄せられた中で、アンヘルはこう告げた。


「エリザベートの言うとおり、指定されたグループへの攻撃を禁じる命令に反して攻撃した場合は、軽くても数日間の謹慎を受ける事になります。その攻撃による周囲の被害の拡大、それも何の関係もない一般人が巻き込まれたとなれば、処罰は更に重くなるでしょう」

「そりゃそうでしょう。命令無視によって一般の島民を巻き込むなど言語道断ですわ」

「ですが指定されたグループの一員が先に攻撃を仕掛けた。その者の攻撃力は生死に関わり、かつ明確な殺意があった。周囲に無関係の一般人がいない。妨害電波等による連絡手段の喪失。自らの命の危機に迫るこれらの条件が揃った場合、実は正当防衛と見做され不問になる事が多いんですよ」


命令無視に対する基本的な処罰と、正当防衛の条件を同時に告げられた時、ほとんどの生徒が驚きの声を上げ、エリザベートに至っては「何ですって!?」と叫んだ。
そんな中、バーンは難しい言葉が多く出たのか、意味が分からず頭を悩ませていた。


「せんせー、謹慎って何だ?不問って?」

「謹慎は自分の行いを反省して家にいなければならない事で、この場合は道化会について調べる事が出来なくなるし学院にも通えなくなる。不問は命令違反などの問題を起こしたとしても、上の判断でその問題をなかった事にする意味だ」

「えっ?つー事はミシェルはどうなるんだっ!?」


エクセリオンの説明を受けて二つの言葉は正反対の意味を持っていると知った時、バーンはミシェルに対する最終的な処罰を気にし始めた。
それについて答えたのはアンヘルではなく、後ろで静かに聞いていたセロンだった。


「リアンの実力は私の封殺術を短時間で破り、かつ拳の威力も驚くべきものがありました。その上、彼は本気を出していませんでしたが、下手にこちらの救援が現れれば逆に被害は拡大していたのではないかと。それにエンドル殿があの場へ駆け付ける事も、今は大きなリスクしかありませんね」

「…と、言いますと?」

「貴方は神子リヴマージの護衛を担当していますよね。もちろん彼女の意向によっては駆け付けられるかもしれませんが、その場合、相手の狙いはミシェルからリヴマージに変わりますよ?」


後にアンヘルが追加の説明をすると、エンドルは「あ…」と肝心な事を気付いた様な表情を浮かべた。
そう、道化会の目的はそれぞれ異なっていても、消すべき存在は同じ。
彼の主な任務はリヴマージを守る事、彼女が共に学院へ行くと頼まない限り、早朝からあの森へ向かうのは不可能と言っても過言ではない。
たとえ武道大会で2回の優勝経験を持つ実力者だろうと、道化会絡みの事件を終わらせるまで、アイドライズにとって最も重要な人物から勝手に離れるのは許されないからだ。


「それに、仮にミシェルとセロン先生がリアンに追われている状態で学院まで逃げたとしても、一昨日と同じ事件が起こる可能性も考えられます。学院の関係者の中にスパイがいたら尚更」

「例の怪物を引き連れて襲撃…って事ですか…」


そしてもう一つの援護要請の方法を思い付いても、一昨日と同じ事態になる可能性が出ると聞かされると、ステファニーは声を震わせながらそう言った。
敵がまた学院内に攻め込まれれば、同時にまた怪我人が多く出てしまう。
しかも相手はセロンの封殺術を短時間で解いた者なのだから、被害は更に大きくなると見て間違いないだろう。
あの時、ミシェルが森でリアンを足止めしてくれなかったらどうなった事やら。
治療をしている時に見た3年生の状態を考えると、恐ろしさのあまり背筋が凍るモノである。


「とりあえず、今朝のミシェルの命令無視については学院長との話し合いで決める事にします。皆さんが道化会について得た情報も兼ねてね」

「結局学院長の判断次第かよ」

「軍人の処罰は最も上の存在が決めるモノ。サクレイド学院からしたらファウンダット学院長が一番上であり、僕は中間管理職、みたいな存在だと思ってて下さい」


これも上下関係を表し、今ここで言い渡せないのはそういう意味だと思わせるアンヘルの判断に、全ての2年生の生徒達は仕方なく受け入れた。
そうしてミシェルの発表はこれで終了となり、言い付けを無視した罰は学院のメールで知らせると締めた所で、最後はリヴマージ、レヴィン、カイザーの番となる。
13/21ページ