Story.05≪Chapter.1-5≫

付近にいる人物も信じて良いのか分からなくなる、そう感じたステファニーは不安のあまり身体が小刻みに震える。


「ステファニー?」


すると近くに座るエクセリオンに声を掛けられると、『ビクッ』となりながらも我を取り戻す。


「大丈夫か?」

「う、うん…。ごめんなさい…」

「まぁ、急に目の前のヒトを疑えって言われても難しい部分はありますよね。個人的な恨みとかがあれば話は別ですが」


彼女の様子はアンヘルも目にしており、不安を和らげる様に言った筈が…、


「一番怪しいのはミシェルですわ。お前は確か5歳より前の記憶を失ってるわよね?まさかそれは嘘で、私達を騙す為に今までその事を周囲に言いふらしているんじゃありませんの?」

「その時の記憶がねぇのは本当だ。信じられねぇんならピュアリティ・クラウンの局長に聞けよ」

「あら、その者達を盾にしたって無駄ですわよ。私がお父様に言って傭兵に頼めば、すぐにでもお前の自宅を家宅捜索させる事も出来ますわ。所詮、ピュアリティ・クラウンは有力貴族の直轄ではありませんもの」

「家宅捜索しても何も出て来ねぇよ。つーか防衛局を格下みてぇに言って良いのか?」

「事実を言ってるだけじゃありませんの。何を言われても痛くも痒くもないわ」


何故かエリザベートとミシェルの口ゲンカが起こり、他の同級生達はどうしようかと戸惑っていた。


「ほぉ、俺もお前の格下だと言いてぇのか。性悪貴族が」


すると横で聞いていたカイザーが口を挟み、それを聞いたエリザベートの顔色が一気に青ざめる。
彼はピュアリティ・クラウンの局長―リコリスの息子であり、自身も彼女の部下達との関係を築きつつ局員の一員らしい行動をしているからだ。
四王座に名を連ねる程の実力と美しい容姿にエリザベートは一目惚れをし、他の有力貴族を相手している時と同じ様に様付けをしている程の恋心を抱いている。
相手の冷たい返しに、これは失言をしてしまったかと絶望感を抱きつつそちらに視線を送る。


「あ…、いえ、そんな事は…」

「はいはい、言い争いはそこまで。スパイの存在もデタラメの可能性があります」


不穏な空気を察したのか、アンヘルは確実に内通者がいるとは限らないと声を掛けた。
これもまた証拠がなく、目的の為ならば誰かを陥れ支持を失わせる罠(トラップ)かもしれないからだ。
こうして和が乱される事も敵側の思う壷だと宥めた所で、エンドルが口を開く。


「僕も一つ、宜しいでしょうか?」

「あ、はい。何でしょう、エンドル殿」

「ミシェルがアンヘル先生の言い付けを無視して攻撃した点は、どう思っていますか?」


しまった、スパイの存在の可能性により騒ぎになった時点でスルーされたと思われた話題が、今こうして出て来るかと気まずそうに視線を逸らすミシェル。


「あっ、忘れる所でしたわ!アンヘル先生、この女が道化会の男に攻撃したのは違反じゃありませんこと!?」


予想通り、カイザーから言われたショックで立ち直っていなかったエリザベートが、この話に持ち出された瞬間に顔を上げてアンヘルに強くそう言った。
その一方でユリアンは親友が罰せられるのではないかとハラハラし、クラリネは何かを言いたいと思っても声が出ず、アンナは緊張の面持ちでミシェルとアンヘルを交互に目を向ける。


「リアンの奴のパンチ、見てなかったのか?地面が凹むくらい強烈だったんだぜ?ありゃ反撃しねぇと死ぬヤツだって」

「だがそれなら、避けながらアンヘル先生か他の教職員、それと防衛局に連絡すれば良かったんじゃないのか?電脳の魔法による妨害の可能性があれば、学院がある方向へ逃げて助けを呼ぶ事も出来た筈だ」


言い付けを無視してまで攻撃したのは正しいというカルロスと、時間は掛かっても援護要請を行う手段はあったというエクセリオンの意見が交錯し、他の生徒達も各々の意見を言い合っている。
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