Story.05≪Chapter.1-5≫

「やっと終わりましたわね…」

「しかし、よくそこまで記録出来たな。道化会の会員と対面したとなれば、ジャミングアーマーの様に電脳の魔法が仕込まれた道具を持っているかもしれなかった筈だぞ?」


長い展開だったとエリザベートは疲れた顔をし、エクセリオンはこれ程の音声と映像が残せた事に感嘆の声を上げた。
電脳の魔法は通信を妨害させるだけでなく、録画(レコード)も正常に機能しないよう仕組む事も可能だからだ。


「ただ単にラッキーなだけか、こっちの情報不足を知ってあえて電脳の魔法を使わずに喋ったのかもな」

「俺らナメられてんのかーっ!?ふざけやがって!!」


ミシェルの後者の予想にバーンがショックを受けて叫ぶが、アンヘルは「うーん…」と考え込む仕草を見せる。


「確かに僕達が情報不足の中、リアンという男からこれだけ聞き出せたのはラッキーかもしれないけど、内容によってはアンラッキーかもね」

「アンラッキー?」

「とりあえずミシェルが送った動画の内容を、一つずつ整理していきましょう」


一度に多くの情報が出たらそれこそ混乱を極めるだろうと見て、アンヘルは動画の内容の再確認に入る。


「まずは、ミシェルとセロン先生の前に現れたリアンという男からですね。彼は“粛清の炎”と同じく“仮面の悪魔”の代行者の一人。で、“殲滅の風”というのはコードネームと見て間違いないでしょう」

「コードネームと自分の名前を同時に言うとは…」

「リアンっつーのは偽名の可能性がある。今まで隠し通してきた道化会にいるんだから、本名までは言わねぇだろ。先生、そいつの静止画も送ったぞ」

「コードネームと偽名を組み合わせて名乗った、有り得ますね。おっ、全身の画像も用意出来たとはさすが」


リアンという名は本名ではない可能性を残しつつ、アンヘルはミシェルが送信した彼の全身が映った静止画を元に、立体映像(ホログラム)を出現させてこの教室にいる全ての者達に見せた。
全身がフード付きの黒いロングコートに覆われているせいで髪型は分からず、目元の仮面が装着していて瞳の色も不明だが、口元からは鋭い犬歯が見えた。
正体の方は明かさないと思わせる様な容姿であるが、実力はセロンを凌ぐ程のモノであって今は勝ち目がなさそうだと見た他の生徒達とエンドルは、後にその静止画を送信して欲しいとミシェルに頼み込んだ。
彼女は「へいへい」と言いながら希望者のタブレット端末にそのデータを送りつつ、次の話題に入る。


「次はリアンの目的についてですね。彼は“リヴマージと彼女に忠誠を誓う有力貴族によって弱者を潰す政治を行い続けている”、“その彼女の支配から解放させる”と言っていました。念の為確認しておきますが、リヴマージ、本当に何もしていませんよね?」


リアンが道化会に所属する理由について語った数々の言葉に、アンヘルはリヴマージに確認を求めた。


「当たり前です!私が弱者を潰すだなんて有り得ません!政治に関しましては、基本的には有力貴族の皆さんに任せっきりなんですよ。神子が関わるのは闇の勢力による侵略や外部からの襲撃とか、アイドライズ島に危機が迫った時にしかないんです」


彼女はそれらを全面的に否定し、神子という立場の細かい事情も説明した。
確かに歴代の神子の功績から考えても、島民の生活に関わる制度を提示したという話はなかった。
つまりリアンの言葉は嘘、もしくはリヴマージを陥れる者が彼に言い聞かせた話をそのまま言った可能性があるという事だ。
それは引き続き調査すると区切り、最後は生徒達にとって信じ難い情報。


「そしてこれが最も重要な情報…。このサクレイド学院の関係者の中に、道化会のスパイがいるという事です」

「先生がアンラッキーかもって言ってたのは、これの事だったのね…」


相手から次々と情報が言い渡された中で、最も悪い知らせと言っても良いだろう。
道化会の会員が学院に通いつつ、その情報を集めて首謀者の“仮面の悪魔”、もしくはリアンや“粛清の炎”などの幹部達に知らせているのだ。
聖冥諸島に住む一般の島民達や有力貴族だけでなく、先輩である3年生や後輩の1年生、更には同級生の2年生と教職員をも疑わなければならない事態となり、アンヘルは情報不足の中で幸運(ラッキー)と思っていないのはこれが原因である。
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