Story.05≪Chapter.1-5≫

するとカメラの視点はミシェルへと切り替わり、彼女が水を纏った刀による最後の一振りをした瞬間、セロンの姿が消えた。
突然の事で視聴している生徒達からざわめきの声が上がり、エンドルも「消えた…?」と小声で呟いていた。
映像も彼を探す様に前方から横、更に後方へと動いていると、突然視点が反対側へ素早く切り替わり、正面から掌(てのひら)よりも少し大きめの赤い魔法陣が急接近した。


「何だ今のっ!?」

「セロン殿の奇襲か!?」

「いいや、私はああいう技は使った事がない」


それにバーンが驚き、エクセリオンがセロンの技の一種かと声を出したが彼に否定された。
魔法陣を繰り出した人物はこの後の展開だと示された所で映像に集中すると、黒いフード付きのロングコートと同色の手袋とブーツで顔面を除く全ての部位を覆い隠し、目元にだけ黒い仮面を装着した男―リアンの姿が映し出された。
これを通して初めて見た生徒達にとっては、何者なのかが分からずただただ衝撃を受けている。
映像の中にも『てめぇは誰だ!』というミシェルの声が響き、リアンは後にこう言った。


『お前の血を頂こう』


すぐには名乗らず、笑みがこぼれたと同時に鋭い犬歯が見え、襲い掛かろうとした時に横から“何か”の衝撃で相手の男が飛ばされ、付近の木にぶつかる音がした。
誰がやったのかと思わせる様に視点が左に移動すると、黄金の刀を構えたセロンの姿があった。
早朝からそんな事があったのかとアンナは息を呑み、クラリネは突然の襲撃に怒りを感じていた。


「…鍛練している時に、今のヒトに襲われたのね」

「ひっどーい!二人が修行してる時に邪魔するなんて!」

「“血を頂こう”って、相手吸血鬼じゃないの?牙も尖ってたし。でも何で朝から森に…?」


一方でユリアンはリアンのセリフと口元から見えた鋭い犬歯が気になり、彼の種族が予想出来たものの、陽が昇る時間帯に現れたのかが理解出来ずにいる。
吸血鬼は太陽の光が苦手な事もあって活動の時間は大抵夜間に限られ、朝や日中は外に出る事が困難な筈だ。
しかし映像の全体をよく見ると木陰のある場所がなく、今日は曇り空という天気予報が出ていたのを思い出した。
太陽が見えない程分厚い雲に覆われていたと考えれば、それ程不思議ではないと感じた時、次の会話を耳にする。


『第六代剣帝セロン…、相変わらず姑息な手段を使う男だ…。大方、封殺術を用いて私に感付かれぬよう隠れて見ていたのだろう。弟子である彼女をオトリとしてまで』

『それで私が癪に障るとでも?』

『まさか。有力貴族に名誉を守られている貴様など興味はない。私は単に、そこにいるミシェルに会いたかったのだ』

『何故彼女の名を知っている?私達は一度も、君に自己紹介をした覚えはないんだが』


リアンがミシェルの名を口にした時、2年生の生徒は一斉に彼女の方に目を向けた。
対するミシェルは全く動じず、理由はその先の展開にあると思わせる様に映像に指を差すとリアンがこう言った。


『サクレイド学院に、我ら道化会のスパイを送り込んだ。お前達の行動や策など筒抜けだ。無論、リヴマージ・C・クロムヘルの動向もな』

「なっ…!!」


この時、レヴィンが誰よりも早く驚きの声を上げ、映像の中のミシェルも同じ様に声を上げた。
他の生徒達も再びざわめき、アンヘルもまた先手を取られたかと思わせる様に右手で頭を抱えていた。
そしてリアンが“我ら道化会”という言葉を口にしており、まさかと耳を傾けると…、


『私は“仮面の悪魔”様にお仕えするクアトロ・レイドの一人、“殲滅の風”のリアン』


彼は自らの立場と名を名乗った瞬間、この場にいる全員に衝撃が走った。


「クアトロ・レイド…。“粛清の炎”と同格の男だったとは…!」

「だ、大丈夫だったの…?傷は…?」


何の前触れもなく姿を現した幹部の前にエクセリオンは冷や汗を流し、ステファニーはミシェルを心配そうな目で見つめていた。
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