Story.05≪Chapter.1-5≫

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時刻は14時50分、6時限目の学級活動はアンヘルに課された宿題の発表、すなわち道化会に関する調査の報告が行われている。
201教室の中で声が多く飛び交ったのは、アイドライズの東の海岸付近に位置する街―≪ヘルマッド≫に隠れ住む闇の勢力の仕業や、有力貴族に対しての怨恨を持つ住民による犯行ではないかという情報だった。
あの街の統治者はマフィアであり、裏で様々な違法取引が行われ、更には犯罪や貧困などの理由で移り住んだ浮浪者も多いとの事で、それらを聞いたアンヘルは困った表情ばかり浮かべていた。
ピュアリティ・クラウンによる治安も完全には行き届いておらず、生徒達を向かわせるにも危険が過ぎる。


「ヘルマッドかぁ…。あそこは住民達から地下に遺跡があったっていう情報はあったけど、治安が悪くて考古学者も傭兵も怖くて行けないって言ってたね。そこを拠点として暗躍してそうだけど、その方面に向かう会員らしき者を見たっていう人は?」


ここでその街で仮面を被り、ローブやフード付きのロングコートを纏った人物の目撃情報を求めるが、見たという生徒はいなかった。
一番後ろに立っているエンドルも、そして彼の隣にいるセロンも首を横に振り、≪ヘルマッド≫が道化会の本拠地である事は断定出来ないと、現時点でそう結論付けた。
アンヘルは後に他の教職員達と共にその街について調べてみると言った後、発表していない生徒の一人であるエリザベートに視線を送る。


「はい、次はエリザベートの番」

「私が得ましたのは、1年前にこの学院内で起きたプロヴォーク家の長男、ファーウェル先輩が殺害された事件についてですわ」


彼女が告げた報告に他の生徒達がざわめき始め、ミシェルも視線だけ彼女に向けた。


「事の始まりは当時の3年生達による抜き打ちテスト。その時のファーウェル先輩の対戦相手はカルマ・T・レジスタントですの。彼との戦いの末、ファーウェル先輩はカルマの地属性の攻撃によって心臓を貫かれて命を落としました。この事件をきっかけに、カルマは退学よりも重い追放処分を受けてこの学院を去ったとの事でしたわ」


その内容は裏サイトやウェブニュースで取り上げられた通りのモノであったが、報道では伏せられていた筈の容疑者のフルネームが出た事により、アンヘルは驚きのあまり目を見開いた。


「容疑者の名前、この場で堂々と出すのかい?」

「私達有力貴族と防衛局、そしてサクレイド学院の関係者だけによる内密の調査ならば、その名を出しても良いというお父様のお許しがありましたからご安心を。もちろんファーウェル先輩のお父様であるロバート様も、事件解決の為ならば喜んで協力すると申し上げていましたわ。何せプロヴォーク家の次男のマグナ様も、今やこの学院の1年生ですもの。これ以上家族を失わせたくないというご意思が強くあった事でしょう」


裏サイトで知ったミシェルと違い、エリザベートは自らの父親や同じ有力貴族であるプロヴォーク家を通して1年前の事件について調べていた様だ。
本来、未成年の犯罪者の名前を挙げる事はタブーとされていたが、同等の身分による話し合いから許可が入ったのであればアンヘルは納得せざるを得ない。
ロバートが長男が殺害された舞台となったこの学院で襲撃事件が起きたと聞けば、今は在学中の次男を同じ目に遭わせたくないという父の思いがあるのだろうから。


「そこでアンヘル先生にお願いしたい事がありますわ。カルマの顔写真を私達生徒にも見せて頂けないかしら?もちろん、追放当時のモノでも構いませんわ」


後にエリザベートがアンヘルにそう懇願し、彼は「そうだねぇ…」と若干渋る仕草はあったものの、自らのノートパソコンを出しては電源を入れて操作を始めた。
未成年の犯罪者の名前を知る事は出来ても、聖冥諸島の法律ではその人物の写真を報道で利用する事は禁じられており、仮に防衛局や新聞社が手元にあったとしても見せてくれない事が多い。
そしてカルマ自身は無実を主張しているという記事もあった為、偶然彼の同級生から話を聞いたとしてもそこまで協力してくれるとは思えないから、今この場で提供を求めたのだろう。
アンヘルが提示の準備を終えた後、エンターキーを押しては彼の隣から少年の立体映像(ホログラム)が現れた。


「これが、追放を言い渡された当時3年生のカルマです」


男子生徒と同じ制服を纏い、ネクタイに付いてある2本の白いラインは3年生の証。
こげ茶の髪を肩の少し下辺りまで伸ばして毛先に赤いメッシュがあり、ツリ目で赤紫の瞳を持つ姿を、この教室にいる全ての者達が見つめていた。


「ファーウェル先輩の死因は、地属性の魔法によって心臓が貫かれた。カルマの所持属性は地属性、でしたわね?」

「うん、それが決め手となったんだ。彼自身は“やってない”って言ってるけどね」


この辺りの情報は既に様々なウェブニュースで報じられた上に有名な事件の一つである為、容疑者のフルネーム以外は誰一人として知らない者はいない。
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