Story.05≪Chapter.1-5≫

白い光に包まれる刃はおそらく赤紫の結晶を壊した時の様に、傷を付けると同時に相手の魔力や能力を封じる“力”が宿っている。


「封月・下弦(フウゲツ・カゲン)…!」


閃光は三日月を描きながらリアンと重なる様に走り、威圧に溢れる風属性の魔力は一瞬にして収まった様に感じた。
道化会の幹部(クアトロ・レイド)と言えど、自慢の“力”が使えなければ優勢はこちらに傾く。
そう思った瞬間、再び風属性の魔力がこの森を覆うかの様に溢れ、一瞬だけ強い向かい風が吹いた。
その影響により少量の土埃が舞う中でミシェルとセロンが目にしたのは、無傷のまま立っているリアンの姿だった。
刃は確かに彼の身体に届いた、それなのに傷がないのは何故なのかと思った時、ロングコートの右肩付近に僅かな傷が見えたが瞬時に消えた。
しかも胴体部分に血が付着している所を見ると、ダメージを与えたのは間違いない。


「ふむ、それなりの“力”は付けてきた様だな」


だがリアンは何事もなかったかの様にそう語り掛け、ミシェルは一度セロンに視線を送る。


「どうなってんだよ…」

「傷が消えた所を見ると自己再生の能力か、それに関する魔法とかで癒えたんだろうね」


前者について考えられるのは、鋭い牙を持ちヒトの生き血を啜る種族―吸血鬼という種族であり、9年前の事について聞こうとした時に『お前の血を頂こう』とも言っていた。
この時間は本来太陽が出ている頃なのだが、今日は日差しが出ない程の分厚い雲に覆われており、弱点である陽の光を浴びる事はないと踏まえて森に来たと推測出来る。
一方後者は、基本的には回復関連が多い水属性か光属性の補助魔法が頭に浮かぶが、リアンから水属性の魔力が一切感じられず、吸血鬼は闇の種族の一種と挙げられ、光属性を持つその種族は極めて稀と言われている。
しかしたとえ魔法を使ったとしても感知による属性の識別は簡単な方であり、これまで一度も双方の属性の気配は感じられなかったので、彼の傷が消えたのは能力によるモノであるのはほぼ確実となった。


「……って事はコイツ、吸血鬼だろ。朝の時間は出て来ないからって、早くもその予想は切り捨てたんじゃねぇのか?」

「有り得ないって言われそうだから言わなかっただけだよ…。朝からこんな天気じゃ、外に出ても弱らないと思ってたけど」


どうやらセロンは早々にリアンの種族を理解していた様であり、ミシェルの不満そうな言い方からの返答をしつつ空を見上げた。
すると雲の色は白一色となり、ゆっくりと青空が3人を覗く様に見え始めた。
それに気付いたリアンは二人から離れながら、晴れた時に木陰の面積が広そうな場所に移動する。


「思ったより早く日差しが出そうだな。まぁ良い。ミシェルの元気そうな顔が見れて何よりだ」

「おい、逃げる前に答えろ!あの日の出来事って一体…っ!?」


ミシェルは“自分が9年前生き長らえた”意味を知るべく問い詰めようとした時、再び強風が吹き荒れて思わず両腕で顔を覆った。
しばらくして止み、腕を下ろして目を開けた時には既にリアンの姿はなく、森には彼女達二人が残された形となった。


「逃げやがったな…」

「でも今はこれで良い。ミシェル、リアンの発言を記録したかい?」

「もちろん。これも宿題の一環さ」


≪斬蒼刀≫を仕舞い、ミシェルは当初から装着していた黄金に輝く目をデザインとしたピンバッジに注目させた。
これは学院に向かう前にシェルマリンから手渡されたモノで、ピュアリティ・クラウンの技術開発部の部長であるフォードが映像と音声のレコード機能が搭載された試作品を作ったとの事で、そのテストとして利用して欲しいと言われたのだ。
まさか早くもここで活用する事になるとは、しかしこの件も6時限目が始まる14時35分までに資料などをまとめておかなくてはいけない。


「6時限目の発表に私も出席して良いかアンヘル先生に相談しておくよ。この件は君と同じ当事者だから」

「あー、そっか。そうなるのか…」


新たに目撃した道化会の幹部―リアンに関しては、証言も多くあった方が良い。
そう感じてでのセロンの一言にミシェルは納得しながらも、少し都合が悪いと感じて目を逸らした。
“戦うな”という担任の言い付けを破ってしまったが故に、一部を除いて苦言を呈する生徒が出てきそうだからだ。
白い雲の隙間から太陽の光が森を照らす中、ミシェルとセロンは≪サクレイド学院≫へ戻るのであった…。
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