Story.05≪Chapter.1-5≫

だが今は自分の周りの事、特に学院内で引き起こした事件との関連性があるかどうかを知るのが先であると判断し、彼が道化会に所属する理由を尋ねる。


「リアン……と言ったか。お前は何の目的で道化会にいるんだ?俺に会いに来た事と、何か関係があんのか?」


刀を握る手が震える、こんな状態になったのは初めて自らの師に武器を向けた4年前以来だ。
あの時は彼が構える姿を見て、“剣帝”としての威厳を間近で感じて気持ちが押されてしまったと思っていたが、今は違う。
リアンから禍々しい気配が溢れ、これまで対峙した事のない存在を目の当たりにしているかの様だ。
一言で表すのならば異次元、担任のアンヘルに『戦おうとせず捕まえようとしない事』と言われるのも納得がいく。
しかし単に引くワケにはいかない、会話を通して少しでも多くの情報を得なければ。


「私が道化会に所属する目的か。そうだな…」


リアンがそう言いながら高々と跳び上がり、空中で再び右の拳に赤い魔法陣を出現させ、殴る態勢に入る。
向けられたのはミシェル、彼女は刀をしっかりと握り締めて相手を見つめ、セロンはそんな彼女を庇う様に前に立つ。


「君の相手は私だ。彼女に手出しはさせない!」


彼がこちらに注意を向ける様に言った瞬間、リアンの周りから激しい風が吹き荒れ、右の拳をそのままにした状態で左手から強風をセロンに向けて放たれた。


「…!くっ…!!」


後ろに飛ばされるかと思いきや、上昇気流に乗せられるかの様に急激にセロンの身体が浮き上がった。
ミシェルは思わずその方向に視線が行くと、正面からリアンが迫り来るのを感じて回避を優先にする。


「このアイドライズを、リヴマージの支配から解放させる事だ」


少し遅れて発せられた質問の回答に「はぁ?」と反応しながらも、振り下ろしの攻撃を右にサイドステップで避けた。
魔法陣が纏う拳は地面をも窪みが出来る程の威力があり、その一撃を喰らったら立つ事もままならないだろう。


「リヴの支配から解放させる、だぁ?ふざけてんのか?ワケの分かんねぇ事言ってんじゃねぇよ」

「そのままの意味だ。聖冥諸島、特にアイドライズは偽りの神子、リヴマージ・C・クロムヘルと彼女に忠誠を誓う有力貴族の手により、弱者を潰す政治を行い続けている」


弱者を潰す政治、そう耳にしたミシェルは思い当たる情報が何もなく、リアンの発言に真実味を感じられない。
余程自分や道化会全体の事は話したくないのか、それとも嘘の発言でこちらを混乱させる策か。
いずれにせよ誤魔化すにしては下手だと感じた時、再び赤い魔法陣が纏う拳が迫る。


「ちぃっ!」


ミシェルはしゃがんで拳が通り過ぎるのを下から確認し、≪斬蒼刀≫を握り直して水属性の魔力を集中する。


―アンヘル先生、悪ぃ。このまま避けてばかりじゃ死にそうだから、攻撃に出る!―


この状況を打破するには、念を押された担任の警告を破るしかない。
後で誰かに苦言を言われるだろうが、相手の戦術を知るのも今後の行動において重要な突破口のカギとなる。
セロンを上にふっ飛ばした強風には風属性の魔力が含まれており、“殲滅の風”の異名の通り風の使い手なのは分かった。
ならばそれに有利な技を、ミシェルは刀に水属性の魔力を纏わせたまま移動し、リアンの背後を取っては右上に振り上げる。


「双冷斬(ソウレイザン)!!」


リアンが振り向いたと同時に水の刃が右下に振り下ろされ、直後に魔力を氷属性に転換させながら素早く左上に振り上げては左下に振り下ろした。
バツ印を描くように交差して走った水と氷の軌道は、確実に相手の身体に傷を入れた。


「今のは自分の実力を知った上で攻撃したのかい?無茶な事をしてくれる」


すると上からセロンの声がし、ミシェルはリアンから少し距離を取りつつ見上げると、セロンは頭上から落下しながら黄金の刀に魔力を纏わせていた。
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