Story.05≪Chapter.1-5≫

「……今ので聞きたい事が山ほど増えた」

「ああ、そうだろうな。だがその前に…」


ミシェルが最初の質問をしようとした時、いつの間にか男が急接近していた。


「お前の血を頂こう」


その一言にミシェルは水属性の魔力を集中しようとすると、男は“何か”の衝撃で左に飛ばされ、付近の木に直撃した。
何が起きたのかとその方向に視線を送った彼女が目にしたのは、黄金の刀を構えるセロンだった。
やっと現れた師匠の姿に、彼女は安堵の息を漏らして話し掛ける。


「師匠、何処にいたんだよ…」

「修行中に不穏な気配を感じ取ったんでね。少しの間、君にも察知されない程度で身を隠していた」


だから何処にいたのだと聞いている、姿を隠した経緯だけ話すセロンに溜め息を漏らしながらそう思った。
しかしこの状況の中ではそんな事はどうでも良いと気持ちを切り替え、いきなり襲って来た男に集中する。


「第六代剣帝セロン…、相変わらず姑息な手段を使う男だ…。大方、封殺術を用いて私に感付かれぬよう隠れて見ていたのだろう。弟子である彼女をオトリとしてまで」

「それで私が癪に障るとでも?」

「まさか。有力貴族に名誉を守られている貴様など興味はない。私は単に、そこにいるミシェルに会いたかったのだ」

「何故彼女の名を知っている?私達は一度も、君に自己紹介をした覚えはないんだが」


セロンは男の出方を窺いながら言葉を交わし、そしてミシェルも気になっていた質問をしてきた。
すると男は「ふふっ」と笑い出し、ゆっくりと歩き出す。


「サクレイド学院に、我ら道化会のスパイを送り込んだ。お前達の行動や策など筒抜けだ。無論、リヴマージ・C・クロムヘルの動向もな」

「何!?」


その回答にミシェルは驚きの声を上げ、セロンは「ふむ…」と平静を保ちながら一つの確認を求める。


「“我ら道化会”…。という事は、君も会員の一人かい?」

「その通り。私は“仮面の悪魔”様にお仕えするクアトロ・レイドの一人、“殲滅の風”のリアン」


目の前にいる男―リアンが自らの所属と名前を告げた時、ミシェルとセロンは目を大きく見開いた。
まさかこんな森の中で、一昨日見掛けた“粛清の炎”と同等の立場の者と遭遇するとは思っていなかった。


「こんなサプライズ、アリかよ…」

「もしくは、単に私達が情報不足なだけかもしれないね…」


ミシェルはこの短い期間で更なる強敵の出現に冷や汗を掻くが、今回はセロンの言う通り、情報戦においてこちらが大いに出遅れている事も有り得る。
何せ昨日はアンヘルから、道化会に関する情報を集めるよう宿題として課され、今日の6時限目に発表するとのメールが来たのだから。
敵はスパイを通して、自分達の今日の予定でも手に入れていたのだろうか。
しかし一昨日との違いは、この場に神子のリヴマージがいない事である。


「道化会の狙いは確か、リヴの命だったよな?残念だが今日はここにはいないぜ?」

「言った筈だ、私はミシェルに会いに来ただけだと。“粛清の炎”とは同じ道化会に所属しているが、目的は別にある」

「目的は別、ねぇ…」

「“仮面の悪魔”とやらに仕えているのにか?」

「会員が各々の目的を持つ中で、共通する障害がある……とでも言っておこうか」


どうやら全ての会員は同じ目的で活動しているワケではない様だが、その過程、もしくは最終段階において邪魔な存在が同じだから道化会に所属しているらしい。
それは神子なのか、有力貴族なのか、はたまた別の存在か。
情報不足の中でリアンの言葉は次々と謎を呼び、特にミシェルにとっては、失われた9年前の記憶が絡んでいる事にも頭を悩ませる。
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