Story.05≪Chapter.1-5≫

剣帝。

それはあらゆる存在を凌駕する“力”を持ち、人々の為、国の為、そして世界の為に悪しき存在を退けさせる世界最強の5人の剣士達―“五聖剣”の称号の一つである。

インヘイトディオスの剣士―セロンは六代目に値し、その名に恥じぬ実力で“脅威”を撃破し、聖冥諸島では“剣魔”と呼ばれる魔族を封印に導かせ、島々の平和を保たせた。


そんなある日、彼は一人の少女に目を付けた。

身体の至る所に細かい傷と小さい痣が付きながらも、歯を食いしばりながら目の前にいる3人の少年達に、水属性の魔力が篭る青い剣を構えて立ち向かおうとしていた。
女の子一人に対して、男が3人掛かりで攻撃するのは何事か。
これは一度叱り付けてやらねばと思った矢先、青い剣から多量の水が溢れる様に纏い、少女はその状態で思い切り振るった。
すると多量の水が波の如く少年達を飲み込み、収まった時には少年達が咳き込みながら膝を付き、少女は息切れをしながらも何とか倒れまいと態勢を整えている。
青い剣が消えたと同時に、セロンは彼女の元へと駆け付けると、3人の少年達は彼を見て驚いた表情を浮かべながら逃げる様に走り去って行った。


「大丈夫かい?」


その声に、少女はまだ息が荒い状態でゆっくりと左に視線を送ると、セロンは優しそうな微笑みを見せていた。


「……あんたは?」

「私はセロン。通りすがりの剣士だよ」

「セロン…?」


目の前にいる剣士の名前を聞くと、少女は少し黙ってから「……剣帝か」と呟いた。
“剣魔”を封印した事については300年前の話だが、魔法と科学技術が大いに発達しているこの時代、何処にいてもその情報を見聞していたのだろう。
セロンは自分を知る経緯は聞かず、何故傷を負いながら3人の少年達に剣を振るったのかを問い掛ける。


「その傷は…?」

「今の奴ら、俺が女だってのを良い事に殴りやがったんだ。しかもロクに魔法で武器が維持出来ねぇと知ったら、更に余裕こきやがって…。……あれは正当防衛だ。信じられなくて俺を自警団に突き出すって言うんなら、付き合ってやるよ」


どうやら3人の少年達から先に攻撃したらしく、少女はワケもなく剣を振るってはいないと主張した。
詳しく聞くと小さい痣は殴られた時、複数の小さい傷は相手の風の刃を掠って出来たモノとの事らしい。
……言葉遣いはともかく、攻撃された理由は力の弱い女であり、魔力を練る事で武器を形成して維持する魔術形成型武器が完成されていない事だと知ると、格差によるいじめも同然と怒りが込み上げてくるだろう。
しかしセロンが少女に駆け寄った理由は、それらではなかった。


「……いや、傷を見れば分かる。自警団に突き出す必要もないだろう。……君、原始固有型武器って使った事はあるかい?」

「原始固有…。アルケミスト協会の方で作ってる金属製の武器の事か?」

「あそこも鍛冶師がいるのか…。まぁ、そんな所だね。私が持ってるこの刀も、原始固有型武器なんだ」


そう言って彼女に渡したのは、黒い鞘に仕舞ったままの蒼い刀。
少女はその重さを感じて少し驚きながら柄を右手で持ち、左手でゆっくりと鞘を抜くと、濁りのない蒼の刃が輝いていた。


「その刀の名前は斬蒼刀(ザンソウトウ)。この島に来る前、魔力が切れた時の為にって別の国の鍛冶師…、これを作った人から受け取ったんだ」

「ふーん…」

「とこで君、今よりもっと強くなりたいかい?」


刀に関する説明をした後に言われた一言に、少女は一瞬何を言っているんだと思っていた。
だがまっすぐな目でこちらを見る彼に嘘偽りが感じられず、適当な意味も込められていなかった。
しばらく黙り込んだ少女は、意思を持った銀色の瞳で相手の金色の瞳を見つめ返す。


「強くなりたいさ。今まで俺をバカにして来た奴らを見返したいし、何より……お世話になってる人達を守りたい。恩返しがしたいんだ」


肯定した理由を聞いて、セロンは子供ながらしっかりとした意気込みに目を見開いた。
だが彼女なら、この先の未来で起こるであろう“崩壊”に立ち向かえる、そんな気がした。
何故なら先程少年達を撤退に導かせたあの一振りには水属性の魔力だけでなく、あらゆる“運命”を変える“力”が篭っていた様に感じられたのだから。
セロンは少女―ミシェルに蒼い刀―≪斬蒼刀≫を託し、そこから彼女に剣術の指導を始めたのだった…。
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