Story.04≪Chapter.1-4≫

実際に悪口を言う生徒と云ったらエリザベートくらいだが、口では言わずにここで自らの気持ちを吐き出す生徒もいるのは確か。
何故ならネット上での偽名であるハンドルネーム、もしくは匿名の投稿者として本名を隠し、好き放題に書くのが常であるから。
……例外を挙げるなら、対象者の精神が崩壊、かつ自殺に追い込ませた書き込みは防衛局や自警団の捜査の対象となり、書き込んだ本人が特定されて逮捕されるケースがあるのだが。
それはさておき、神子のリヴマージに対する誹謗中傷の内容は見られず、またファウンダットへの書き込みも見られない為、これはハズレかと思いきや…、

『昨日学院を襲って来た道化会ってヤツらなんだけどさ、仕向けたのカルマじゃね?1年前に同級生を殺して学院長から追放処分を受けたあの元生徒。先輩達の噂じゃ、本人はやってないって言ってるのに追い出されたらしいし、その復讐として襲ったんじゃないかな。当時は2年生だった3年生に怪我人がかなり出たから、カルマの同級生をビビらせる為にあんな事をさせたんだと思う。』

『おいおい、追放させた逆恨みってヤツか?今の3年生はあの事件と無関係だろ。学院長を狙うんだったら話は分かるけどよ。だとしたら神子は不憫でしかない。』

『1年前って言ったら、2年生も当時の1年生じゃねぇか。昨日は今の1年生は全員下校してたみたいだからよ、2年と3年だけ残っているのを見計らって事件を起こしたんだろうな。ま、水の座のステファニーのおかげで死人出なかったけど。』

1年前の事件に関する書き込みがあり、それには複数の返信(レス)があった。
あれは確か、当時の3年生が前期の優秀生徒を決める抜き打ちテストを行っている際、その一環である勝ち抜きトーナメントで殺人事件が発生した。
被害者は有力貴族の一人、ロバート・A・プロヴォークの長男である事から大きな問題となり、殺害した生徒は追放処分と課せられた。
それを受けた者は、今後二度とこのサクレイド学院の入学試験を受ける権利を与えず、そして如何なる事情でも学院の中に入る事を許されない。
まさに普通の退学よりも重い処罰であり、近付こうとすると警報音(サイレン)が鳴って防犯システムが作動するらしい。
要するに学院の敷地内に入った時点で魔力感知システムが搭載された装置により不審者と見做される為、仲間と思わしき“粛清の炎”が襲撃を決行したのだろうと、これを書き込んだ人物はそう予想しているのだろう。


「……これがマジだったら、事態はややこしくなりそうだな」


仮に会員の正体を掴み、殺人事件の発端であるカルマという人物がいたとしたら、この事件の真相も明るみになるだろう。
そしてもしカルマが無実であると判明したら、ファウンダットはマスコミや他の有力貴族に糾弾される可能性が極めて高い。
昨日のリヴマージとカイザーの話を合わせると、学院への襲撃は神子の抹殺だけでなく一部の有力貴族の名誉を汚し、没落させるのが狙いで引き起こしたモノと考えられる。
ミシェルはこのサイトのURLをメモし、次に分断後に起きた聖冥諸島の数々の事件を取り扱っているウェブニュース―『ライトデイ電子日報』を開く。
このサイトは≪ワーシップ≫にある≪ライトデイ通信社≫という新聞会社が製作しており、あらゆる事件や騒動などを徹底的に追求する記者が多く、真実味のある記事が書かれているので多くの島民達がこれを見て情報を得ている。
またピュアリティ・クラウンと協力関係にあり、局長のリコリスはその会社の社長とも親しい関係にあるから、ミシェルとしても道化会の動機を探るにはもってこいの場である。
トップに掲載されているのはやはり昨日の学院襲撃事件であり、先程アンヘルが話していたジャミングアーマーの機能について詳しく書かれている。
ミシェルはそれを尻目に“バックナンバー”というコンテンツをクリックし、1年前に起きた学院での殺人事件を探す。


「貴族の息子が殺されたんだから、当然記事にしてるよな……っと、コレか」


見つけたのは『プロヴォーク家の長男、同級生が殺害』というタイトルで、それをクリックして記事を見ると、前のサイトで見た書き込みの通りの内容が書かれていた。

『ロバート・A・プロヴォーク氏の長男、ファーウェル・E・プロヴォークさんが、トーナメント方式の抜き打ちテストで対戦相手の同級生の攻撃によって意識を失い、病院に運ばれたが間もなく死亡が確認された。ファーウェルさんの心臓を貫かれ、そこから僅かに地属性の魔力反応が見られた為、自警団はその属性を駆使した同級生を殺人の容疑で逮捕した。同級生は容疑を否認していると言う。この事件を受けてファウンダット学院長は記者会見に応じ、職員会議を開いて後日同級生の処罰を発表すると語った。』

この時はまだ、カルマの追放処分が下される前の記事だった為、死因と状況しか書かれていなかった。
容疑者が未成年である為名前は伏せられているが、当時の目撃者に聞けばすぐにでも分かる事だろう。
1年前の3年生は既に卒業していてそれぞれの道を歩んでいるものの、その時の担任や審判を務めた教師はまだ学院に残っている筈。
セロンから明朝6時半までの登校を言い渡されたのを機に、ミシェルはついでにアンヘルに聞いてみるのも良いかと感じると、ディスプレイに利用終了の文字が大きく示された。
時計を見ると時刻は17時を刻んでおり、もうこんな時間なのかと思いつつパソコンの電源を落とした…。
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