Story.04≪Chapter.1-4≫

アンヘルもそれを気にするかの様に彼女を見つめ、「うーん…」と悩む仕草をしてからこう言った。


「リヴマージ。今日の宿題は免除しておくから、エンドル殿と一緒に真っ直ぐ神殿に帰って…」

「いいえ、私も聞き込みに参加します」


この件の調査から外そうとするとリヴマージは頑なに拒否し、真っ直ぐな目でアンヘルを見つめる。


「昨日は私がいたから、学院に残っていた先輩達に怪我人が出てしまった。カイザーとレヴィンにも、そして屋上で電波の妨害を解決してくれたミシェル達にも迷惑を掛けたまま、何もしないワケにはいきません」

「別に迷惑だなんて…」

「道化会の狙いは私の命だと言うのなら、この責任は私が取ります。このサクレイド学院と、アイドライズ島の平和の為にも。お願いします、先生。私も聞き込みに参加させて下さい」


あの日、カイザーが反省文を書き終わるまで学院に残っていた事を、道化会による被害状況を知ってからずっと後悔していた。
自分は“神子”という特別な存在であるが故に、シンボルとして崇められていると同時に闇の勢力や聖冥諸島の現状に不満を持つ者にとっては憎悪の対象になり兼ねない。
昨日の“粛清の炎”の言葉と行動を踏まえると、自分のせいで他の生徒達を怖い目に遭わせてしまったと感じたのだろう。
しかし命を狙う者から逃げては何も変わらず、事態を打開する為にも動かなければ、また同じ様に生徒達が危機に直面する。


「私だってサクレイド学院という軍事学院の生徒です。民を守る為、島の平和を守る為に犯人達の陰謀を阻止するのが、軍人の役割なのではありませんか?」


今回の件を真摯に向き合っているリヴマージの姿に、アンヘルは参ったと思わせる様に頭を抱えると、エクセリオンが彼を呼び掛ける。


「アンヘル先生。リヴには現在、エンドル殿が護衛に就いています。道化会の会員と思わしき人物を見つけても戦わない、捕えようとしないという条件を付けるのでしたら、彼女が聞き込みに行っても問題はないと思います。エンドル殿の実力を考慮しますと、仮にリヴに刃を向ける者が出て来ても対処は容易でしょう。何せ闘技場のチャンピオンですし、戦いぶりも3時限目に拝見しました。もしその人だけで不安でしたら、護衛の追加としてレヴィンとカイザーも同行させるというのはどうでしょうか」

「えっ?レヴィンとカイザーも?」

「はい。リヴが心配だからと言って、大人を何人も追加するというのも十分に怪しまれます。アイドライズに住む島民の中に、道化会の会員がいる可能性も考えますとね。学院内での事件は既に伝わっているとはいえ、その状態だと巻き込まれるのを恐れて島民の口から何も得られない事も有り得ます。ですが同い年の友人と一緒ならば、さほど警戒は強めないかと」


何という提案、14歳とは思えないエクセリオンの発言にエンドルは驚きのあまり言葉が出なかった。
あらゆる可能性を考え、リヴマージの意思を尊重した上で意見を述べる姿を、彼は今まで見た事がなかったのだ。
一時は彼女の聞き込みの参加に不安を持っていたアンヘルは、心境の変化が訪れた様に微笑みを見せた。


「……確かに僕が出した条件を考えたら、リヴマージも安全にこなせそうだね。分かった。リヴマージ、君はレヴィンとカイザー、そしてエンドル殿との同行を条件に、島民達への聞き込みの許可を与えよう」

「ありがとうございますっ!」


自分の気持ちが伝わり、聞き込みを許してくれたリヴマージも満面な笑みを見せ、レヴィンとカイザーに「宜しくねっ!」と言った。
彼女の表情にレヴィンは「宜しく」と返してカイザーも黙って頷き、提案を出したエクセリオンも安心した様に微笑んだ。


「それで明日の発表ですが、音声や映像によるデータ活用も許可します。敵の正体が分からなければ動きも予想出来ない中で、情報収集も慎重に行わなければなりませんからね。ただし何度も言いますけど、戦おうとせず捕まえようとしない事。良いね?」


要するに、こちらから戦闘という行為をしなければ情報を得る手段は問わないのか。
発表の方法を聞いた生徒達は「御意!」と返事し、その中でミシェルはこう思っていた。


―あの方法もアリ…か。見てみる価値はありそうだな―


道化会がサクレイド学院を襲った理由は、リヴマージの抹殺だけとは限らない。
襲撃された直後の会議では、有力貴族に対する恨みの線もあるという推測もあったからだ。
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