Story.04≪Chapter.1-4≫

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時刻は15時35分、休憩と昼食時間を挟んで6時限に亘る今日の授業が終わり、明日の予定と下校の挨拶が201教室で行われている。
一時は保健室で治療を受けていたレヴィンとカイザーとカルロスも他の2年生達と合流してこの場におり、顔色も優れている。
生徒達の後ろにはエンドルもおり、護衛対象のリヴマージだけでなくこの教室にいる全員を、不正を見逃さない監督官の様に見張っている。


「明日の予定…といきたい所ですが、ここで昨日学院内で電波を妨害したジャミングアーマーの詳細が入りました」


するとアンヘルが、屋上に道化会が設置されていた黒い機械についての話題に触れた。


「専門家にお伺いしました所、セロン殿が真っ二つにしたという赤紫の結晶には超属性の魔力だけでなく雷属性の魔力も含まれていた事が分かりました」


その報告にエクセリオンはすぐに思い当たる所があって手を上げ、ミシェルも真剣な顔つきになる。


「超属性と雷属性の魔力…。それって、電脳の魔法を行使する為の属性の組み合わせですか?」

「その通り」


電脳の魔法とは今から43年前に編み出された、内蔵されている信号や回線を支配する事でこの世に存在する全ての機械を自由自在に操る魔法の事である。
それもAI(人工知能)の有無に関わらず小型サイズの機器から大型の機械の操作、増してや輸送機や戦闘機の操縦も可能とし、過去に戦艦のシステムを支配して敵軍を自滅に追い込ませたという記録も残っている。
これは魔法に関する知識はなくとも技術者ならば誰もが知っている存在であり、ミシェルも入学する前にピュアリティ・クラウンの技術開発部部長―フォードから聞いた事があり、これを使われたらシステムを正常に戻すのはおろか、犯人の追跡すら困難だとも聞いている。
学院の襲撃は本来、既に下校した生徒にも教職員からの連絡が来る筈だが、昨日はその魔法の発動条件を満たした二つの属性の“力”のせいで他方面からの援軍どころか、伝達にも遅れが出たのである。


「昨日、学院内での通信が不可能になったのはその結晶のせいだと断言出来るとの事でした。電脳の魔法の行使に利用する雷属性と超属性の魔力を断ち切らせたから早期に復旧出来ましたが、道化会が再びこの学院を攻める際、同じ手口を使って来るかと」

「それで私の所に連絡が来なかったんですかぁーっ!?」


それが今になって、クラリネは自分に連絡が来なかった原因を知ってショックを受けており、アンヘルも「そういう事になるね」と返すしかなかった。
彼女の実力はさておき、仲間が助けに来られない事態になるのは何よりも痛手であるのは確かだ。


「さて、それを踏まえて今日の宿題と明日の予定を言います。今日の宿題は、島民達の聞き込みなどで道化会の情報を手に入れる事。その集団の名前は出なくとも闇の勢力に関する情報とか、この島々の社会や生活に関する不満とか、どんな些細な事でも構いません。明日はその情報を皆で発表し合います」


次にアンヘルが宿題を発表すると、ほとんどの生徒達がざわめいていた。


「せんせー!それって本拠地見つけろって事かーっ!?」

「見つけ次第潰せって事だよなー?」

「そこまでは言ってません。それこそ君達の命の保証が出来ませんよ」


まるで早とちりした様な発言をするバーンとカルロスに、アンヘルは呆れながら返しつつ宿題の詳細を告げる。


「昨日の出来事は既に報じられ、道化会側もこちらの現状を知っている頃でしょう。聞き込みだけで会員の正体を簡単に掴めるとは思えないし、主犯と思われる“仮面の悪魔”っていう革命者もすぐには出て来ないと思います。ですが万が一、偶然それらしき存在を見掛けたら僕や他の教職員達に連絡を。決して独断で捕えようとしない事」

仮面を装着した怪物は3年生に怪我を負わせる程の強さを持っており、場所によっては一般の島民にも被害が出る恐れがある。
しかも戦力の詳細は未だに分からぬまま、そして“粛清の炎”と名乗る人物は反射(リフレクト)の効果を持つ独自魔法が使えると聞けば、いざ戦いとなったら誰もが命の危機に直面するだろう。
だからと言って担任のアンヘルや“剣帝”の異名を持つセロンなど、高い実力を誇る教職員が出向けば逆に怪しまれる可能性が高い。
つまり無茶はしない方向で道化会に関する情報収集を、生徒達だけで行うというワケだ。
しかし避けられない懸念があるとすれば、リヴマージの行動と護衛に就くエンドルの存在。
道化会の標的(ターゲット)となった神子と闘技場のチャンピオン、この二人が聞き込みを行うとなるとどうしても目立ってしまう。
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