Story.04≪Chapter.1-4≫

「ちょっとーっ!これじゃあ見えませんわ!カイザー様達はどうなったんですの!?」

「隠してないでちゃんと見せろよーっ!」


特にエリザベートとバーンは、向こう側にいる同級生達の状況を見せろと抗議の声を上げていた。
あの現象が発生した理由として考えられるのは二つ、一つは電脳空間(バーチャルスペース)のバトルモードによる仕掛けとして引き起こされたモノ。
もう一つは激しい戦いの連続で状況を変える目的で誰かが魔法などで霧を呼び起こし、相手に自身の姿を視認出来ないようにする為のモノだ。
これに関する話は手合わせが終わった後に聞くとして、いずれにせよあまりの濃さに観戦している生徒達も見えなくなっているのは誰が見ても分かる。
……とはいえ、担任のアンヘルは画面の向こう側におり、モニタールームの隣にあるトランスポートは許可なく操作する事も出来ず、ここにいる2年生はどうする事も出来ない。


「カイザー、レヴィン、カルロス…」


リヴマージは心配な眼差しで戦況を見つめ、ミシェルも凝視すると、電脳空間(バーチャルスペース)内に溢れた白い霧が徐々に晴れ、闘技場の形もハッキリと見えた。
同時にヒトの姿も形作られる様に見え始めると、何事もなかった様に立つ二人と身体の一部分が氷に覆われて倒れる3人の姿が目に映った。


「た、大変っ…!!」


ステファニーが突然立ち上がり、早急に駆け足でモニタールームを出てトランスポートに入った。
彼女の様子に他の生徒達もほとんどが同じ行動に出る中、ミシェルとユリアンは画面をじっと見つめると、何と氷漬けになっていたのはレヴィンとカイザーとカルロスだった。


「オイオイ、マジかよ…!」

「あの人、ちょっとやり過ぎじゃないっ!?」


そして立っているのはエンドルとアンヘルである事から、3人の同級生達があんな風になった原因はすぐに分かった。
霧を発生させる魔法は水属性が多く、氷漬けはその名の通り氷属性に該当する。
今回の手合わせに関係した5人の中で、それらの属性を併せ持つ人物はただ一人、エンドルである。
アンヘルは審判として公平にジャッジし、普段は適当な指示が多いとはいえ生徒達を不利にさせる様な展開を仕組む筈がなく、増してや属性の組み合わせも全く一致していない。
その為レヴィン達3人を凍らせたのは、ある程度押された所で少し本気を出したエンドルだと推測し、ミシェルとユリアンもトランスポートへ向かった。

時刻は11時40分、トランスポートから現れたレヴィンが身体を擦るカイザーとカルロスの状態を見ながら装置から降り、後にエンドルとアンヘルも帰還した。


「カイザー!」

「カイザー様っ!」


誰よりも早く彼らに駆け寄ったリヴマージとエリザベートがカイザーに心配そうな視線を送り、ステファニーも3人の同級生達の様子を見る。
この時は既に凍結から解放された後だが、風属性は氷属性に弱い特性から、それを持つカイザーとカルロスは未だに身体の冷えを感じている。
レヴィンは氷属性に強い炎属性を持っているが故に一見大丈夫そうなのだが、彼も少なからずダメージは受けている筈だ。
3時限目が終わるまであと5分、しかしステファニーとしては彼らを保健室に連れて行きたい所。


「レヴィン達は一応、手合わせが終わった後に僕が回復魔法を掛けたよ」

「……確かに、3人に大きな傷は見当たりません。けど、この様子じゃカイザーとカルロスの体温は低い状態だと思います。レヴィンも保健室に行って診て貰わないと…」


彼女の言葉と懸命に診察する姿に、エンドルは思わず目を見開いた。
手合わせの結果を聞く前に、ダメージを受けた同級生達の状態を診て保健室に連れて行くべきか否かを決め、相応の治療を施す。
酷い場合は一刻を争う事もあるので、ステファニーはアンヘルにレヴィン達の状態を伝えて判断を促した。
アンヘルは実際に戦う姿を見ていたが故に彼女の案を受け入れ、「彼らをお願いね」と返した。
そうしてレヴィン達3人はステファニーに連れられて同じ階層の保健室へ向かい、カイザーを心配するリヴマージとエリザベートも付いて行った。
彼女達を見送ったエンドルは、それ程危険な状態だとは思わず申し訳なさそうな表情を浮かべており、アンヘルはそんな彼に近寄って来た。


「僕としては病院送りになる程ではないと思いますが、レヴィンとカイザーと同じ四王座のステファニーは念の為と思ったんでしょうね」

「彼女も成績優秀者だったんですか。彼らの体調を的確に見抜けるとは、さすがですね」


何も戦闘能力だけ秀でては“優秀”とは言わない、ステファニーの一連の行動を見て感心していたエンドルであった…。
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