Story.04≪Chapter.1-4≫

時刻は16時、3階のパソコンルームにて赤紫の瞳を持ち、セミロングの黒髪の女性はある生徒が操作するパソコンの画面を見つめている。
灰色のキャミソールの上に鼠色のスーツジャケットと同色のズボン、黒い革靴を履き黒縁の眼鏡と左右それぞれ3つの小さなボタンがある銀色の腕時計を装着するその姿は、真面目な教師の印象を与える。


「ミシェルさん、貴方は一体何を調べているんです?」

「ラウネ先生、まだいたのか…」

「他は聞き込みとかで学院の外に出たのに、ここで調べ物をしたいって言ったのは貴方だけですから、少し気になりまして」


女性―ラウネ・M・エレクパピオンが目にしているのは、薄い水色の髪の女子生徒―ミシェルがクリックしたサクレイド学院の公式サイトだった。
主に内装や授業内容の紹介、学院長の挨拶や卒業生達の進路などが書かれており、これから入学を考えている家庭に向けた内容が多い。
その中でミシェルは、250年に及ぶ歴史をまとめた年表をクリックした。


「この学院の年表…?」

「道化会っていう連中の目的はリヴマージの抹殺だけっつーんなら、他の場所でも十分チャンスはあった。けど昨日、俺を含む居残りの生徒達を人質に取ってまで成し遂げようとしてるんなら、学院に対して何かしらの恨みでもあるんじゃねぇかと思ってな」

「分断戦争で敗れた闇の勢力の残党と、聖冥諸島の現状に不満を持つ者達で構成された集団ですからね。貴方達の予想は、有力貴族に恨みを持っている可能性があるとアンヘル先生から聞きました」

「あくまで予想だからな。それを証明するモノは今の所何もない」


2年生による昨日の報告の内容については担任のアンヘルから伝わっている様で、彼女の今の行動はラウネも理解出来ている。
ラウネもまた、情報学の教師であり3年生の担任でもあるので、今回の事件の解決に意欲を見せている。
何せ彼女の教え子達も巻き込まれ、その中には有力貴族の令嬢もいるのだから。
そして学院長を務めるファウンダットも有力貴族の一人である為、これまで学院内で起きた出来事や卒業生達の動向もチェックしなくてはならない。
しかし年表には主に学院の増築や教職員の就任と退職の歴史が書かれており、ミシェルが見る限り事件性を感じさせる記述は見当たらない。


「……この年に事件が起きて、誰かが解決したっている話はねぇのかよ」

「これは子供の入学を考えている家庭向けの内容ばかりですので、危険と思われる内容は基本的には書きません。親に警戒される可能性がありますから」


確かにラウネの言う通り、学院内の事件が記されていては物騒という印象を受け、子供の身の安全を理由に入学を断念するという選択に至るだろう。
公式サイトからでは手掛かりも得られないかと溜め息を漏らしながらブラウザバックすると、「少し良いかしら」とラウネがキーボードを操作した後に画面に映し出されたのは『サクレイド学院の裏歴史』というタイトルの、黒を背景としたサイトだった。
白い文字で書かれている内容は、これまで希望を感じさせるモノとは正反対で殺伐としたモノが多い。


「……俗に言う裏サイトだろ、コレ。学院の先生がこんなの開いて良いのかよ。しかも学院内のパソコンで堂々と」

「本来はダメですけど、事件の動機を探る目的ならば仕方ありません。ミシェルさんの利用が終わりましたら、私がこの履歴を削除しますので」


禁忌を冒してまで道化会の動機や正体を掴みたいという意思は、ラウネの本気を感じさせる。


「閲覧は許可しますが、書き込みは絶対にしないで下さいね」

「しねぇよ。俺はどっちかっつーと叩かれる側なんで」


そんな彼女の注意にミシェルは自虐を交えながら了解しつつ、早速学院内で起きた事件の年表を見始める。
同時にラウネはここでの一つの用事が済んだかの様に、出入口に歩み寄ってからこちらに目を向ける。


「では、私は職員室に戻ります。17時になりましたら、終了の連絡をお願いしますね」

「へいへい」

「返事は“御意”、の一言ですよ」

「……御意」


ラウネは放課後のパソコンルームを管理していると同時に、生徒達を品の良い軍人に育てるべく服装に関する注意が多いが、言葉遣いにも厳しく言及して来る。
ミシェルに対しては男口調こそ諦めた様だが、返事については上司に失礼のない様にする為に指導した。
そうしてラウネが退室し、ミシェルは後ろを振り返って確認すると再び彼女による服装の指摘の声を耳にした。
やれやれと思いつつ、この250年で発生した学院内の事件の歴史に目を通した…。
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