Story.03≪Chapter.1-3≫

☆☆☆

場所は僅かな灯火が足場を照らす、薄暗い空間。
そこにいるのは“粛清の炎”ただ一人、配下である仮面を被った者達はおらず、自分に指示を出した“仮面の悪魔”という存在も見当たらない。


「神子抹殺、と意気込んでおきながら失敗か?」


すると右方向から男の声がし、そちらに目を向けると微笑みを象徴させる様な仮面を被った、フード付きの茶色いローブを纏った人物がいた。
こちらも自らの正体を曝け出さないように全身を覆い隠しているが、仮面のデザインの通りに笑い声が響く。


「失敗ではない、単なる様子見だ。それにサクレイド学院に対する恨みは、我よりも貴様の方が大きいだろう。貴様の為に獲物を残しておいた、ただそれだけだ」

「おっ?珍しく俺に優しい事してくれんじゃん。で、今の学院の奴らはどうだった?」

「……ジャミングアーマーを設置しただけで焦りの声が上がり、現在の3年生は会員の攻撃だけで20人の負傷者が出た。リヴマージと貴族や防衛局長の息子も、仲間絡みの脅迫をすれば追い詰めるのも容易かった」

「なーんだ、実際大した事ねぇんだな。将来有望と言われてる奴もいるみてぇだが、後輩の質はそんなモンか」


“粛清の炎”から昨日の≪サクレイド学院≫襲撃の報告を聞かされると、微笑みの仮面を被った男は何処か残念そうな言葉を発した。


「だが我々が行った限り、1年生は全員下校し、2年生も一部しか残っていない様だった。その生徒の情報収集も踏まえ、既に“虚偽の水”が学院に潜入中だ」

「それはあの方の命令で?」

「ああ。あの方も気になる人物が学院内にいるそうだ。“創生の地”よ、貴様はどうなのだ?」


“粛清の炎”の問いに、微笑みの仮面を被った男―“創生の地”は「ふふっ」と笑い声を発しながらこう答えた。


「俺は学院内にいるゴミ共を全て消し去れば、後はどうでも良い。神子もファウンダットも例外なく、な」


それは自らを絶望の淵に立たせた、≪サクレイド学院≫の壊滅を見据えた発言。
微笑みの仮面の奥は、憎しみだけでなく隠された狂気も渦巻いていた…。


こことはまた別の場所の薄暗い部屋にて、目元にだけ黒い仮面を纏った人物が複数の画面に映し出された、≪サクレイド学院≫の生徒の映像を見ていた。


数十秒ごとに変わる映像の中で目に止まったのは、ストレートに長く伸ばした薄い水色の髪の女子生徒が蒼い刀を振るう後ろ姿。


正体が気になったのか、側にある装置を操作して彼女の正面が映る画像を探すと、強い眼差しの印象を受ける銀色の瞳が目に入った。


「まさか、お前もあの学院の生徒だったとはな…。ミシェル」


まるで女子生徒―ミシェルを知っている様な呟きをした後に、その人物は笑みがこぼれた。


≪サクレイド学院≫と道化会との邂逅は、島民達に恐怖と不安を植え付けられ、


それが聖冥諸島の秩序に亀裂が生じる兆しとなるのはまだ先の話…。


To be continued.
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