Story.03≪Chapter.1-3≫

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今朝の報道を受け、≪サクレイド学院≫で起きた襲撃事件は全ての島民に衝撃を与えた。
目的は“穏健の神子”リヴマージ・C・クロムヘルの抹殺、そう聞かれると様々な噂が出始める。

分断戦争で敗れた闇の勢力が、逆襲の一環としての行動を始めた。

古の四大魔女の子孫達が、沈黙を破って征服に動き始めた。

分断戦争が起こるきっかけとなった、“嫉妬”を司る邪神の復活の兆し…。

≪防衛局ピュアリティ・クラウン本部≫内の一室にて、薄い紫のハイネックと黒いスカートの上に白いスーツジャケットを羽織り、赤い宝石が付いた銀色のネックレスと黒いハイヒールを装着した、赤い瞳を持ち肩に付くくらいまで伸ばした茶髪を一つにくくった女性がパソコンの画面に映る様々な書き込みの内容に目を通していた。


「失礼します」


すると自動ドアが開く音がしたと同時に、男性の声がしたので視線をそちらに向けると、薄い黄緑の作業着にこげ茶のベストを身に纏い、黒いベルトポーチと白い手袋を装着して黒いブーツを履いた、緑の瞳を持ちさっぱりとしたショートカットの黄緑の髪の男性が入室して来た。


「リコリス局長、ジャミングアーマーの調査記録はお読みになりましたか?」

「読んだわよ、フォード。サクレイド学院の屋上に置かれた機械、随分と厄介な機能を持っているみたいね」


男性―フォード・M・セリックの問いに女性―リコリスが溜め息を漏らしながらそう答えた。
ピュアリティ・クラウン内での連絡やレポート提出は、緊急時を除けば全てパソコンでの送受信とデータ管理で行われ、その緊急時が起きた場合は対面や通話を通して行われている。
今のやり取りは単なる休憩中の会話である為、二人の雰囲気に緊張感は漂っていない。
しかし昨日発生した道化会による≪サクレイド学院≫襲撃に関しては、彼女達も穏やかな気持ちのままではいられないだろう。
何にせよ、神子のリヴマージだけでなくリコリスの息子であるカイザーと、9年前から部下達と共に面倒を見ているミシェルまで巻き込まれたのだから。


「電波の妨害装置に、最新粒子型武器の剣と銃、それに盾(シールド)も標準装備かぁ…。俺もこれを作れば今まで以上に闇の勢力を押せるんだけど、敵に使われたらなぁー」

「援護や救助の要請が出来ない、っていう点だけで不利に追い込まれる事間違いなしね」


昨日の襲撃は学院内に残った生徒と教職員だけで何とか収める事が出来たものの、道化会は今後もジャミングアーマーを利用して目的の遂行に動くだろう。
今はまだ判明されていないがその集団の本拠地を突入する時も、おそらくその機械が置かれてこちらの増援が来ない状況になるのも頭に入れておかなければならない。


「それと、ジャスティスギルドから一人、神子殿の護衛としてサクレイド学院に送り込んだ男がいるんですけど」

「既に隠密工作部から聞いたわ。名前は確か、エンドルって言ってたわね」


話はリヴマージの護衛の任に就いたエンドルの事に入ると、リコリスも情報は入っていた様だ。


「おっ?だったら話が早くて助かります。そいつ、武道大会で2回優勝したらしいですよ。しかもあの闘技場の勝ち抜きバトルで40連勝もした事があるとか」


彼女の様子にフォードはニコニコしながら彼の経歴を語り、「これでしばらくは神子殿も安心出来るっしょ」と付け足した。
≪エンシューズコロシアム≫で行われた大会に優勝すれば、コマンダルを統治するジャスティン・S・アヴェンジットからの恩恵を受ける事になり、護衛などの仕事にも大いに信頼を得られるから、学院側にも任せられると判断したのだろう。
するとフォードに“至急、技術研究室に来るように”との局内放送が流れ、彼はリコリスに「では、仕事に戻ります」と一礼をしてから部屋を出て行った。
彼女は微笑みながら見送り、姿が見えなくなってから再びパソコンに目を通し、書き込みが記されたネットを閉じては別のファイルを開く。


「実力はジャスティン殿のお墨付き。あとは、私達や学院長殿にどれ程の信頼度を上げられるかが問題ね」


その内容は隠密工作部から送られた、エンドルという男の顔写真と情報が細かく書かれた報告書だった。
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