Story.03≪Chapter.1-3≫

「では、3時限目の武術の授業で、何人かエンドル殿と手合わせをして貰いましょう」


それはアンヘル自身が受け持つ科目で、エンドルの実力を目の当たりにさせようという案だった。
これを聞いてカルロスは納得し、他の生徒達も異論の声はなかったが、エンドルは一度アンヘルに目を向けて小声で話し掛ける。


「アンヘル殿、良いんですか?僕はこの先、同行する生徒がこの中にいるかもしれないのに…」


どうやら彼は、道化会に関する今後の調査を考えている様で、自分が相手した所で大怪我を負わせるかもしれないという不安を抱いていたのだが、アンヘルは微笑みながらこう返した。


「実を言うと、貴方が驚く程の実力がある生徒がこの中にいるんですよ。それが誰なのかは3時限目のお楽しみとしますが、ヤバかったら手加減や寸止めすれば良いんですから」

「は、はぁ…」


自分が驚く程の実力者が2年生の中にいる、そう聞かされると半信半疑の気持ちで視線を生徒達に戻した。
見た限りだと、ミシェルだけが側に鞘に仕舞ったままの刀を置いた状態で席に着いていて、他の生徒達の側に目立った物は置いていなかった。
普通は物騒な印象を与えるが、これは武器全体があらゆる金属で出来た原始固有型武器であるから、この様な教室内の光景なのだろう。
既に見慣れているせいか誰もその事を指摘する者はおらず、軍事学院だからこそ当たり前の様に受講している。
エンドルは不思議そうにミシェルの方を見ていると、彼女がそれに気付いて目を合わせる。


「…俺に何か言いたい事あんのか?」

「えっ?い、いや、堂々と刀を置いて……えっ?“俺”?」


教室の目立った所に刀を置いて大丈夫なのかと言おうとした時、相手の女子生徒が自分の事を“俺”と言った所で彼の頭は更に混乱が生じた。
その様子にエリザベートがミシェルを見てから、呆れた様に溜め息を漏らした後にこう言った。


「全く、来客の方に対して礼儀がなってませんわね。そんな態度だから剣術は良くても四王座になれなかったでしょうに」

「関係ねぇだろ」

「この娘の親の顔が見たいですわ。ああ、貴方は元々両親はいなかったのね。可哀想に」

「実力面で認められた奴はいねぇのに、お前の親がアイドライズを治めるビューティリス家の代表なだけで裏口入学したんだったな。可哀想に」

「そんな根も葉もない噂を言ったって無駄ですわ!私だってちゃんと入学試験に合格して今ここにいるんですから!」

「はいはい、言い争いはそこまで」


二人の口ゲンカがヒートアップしそうな所で、アンヘルが冷静に止めに入った。
ミシェルは教壇の前に立つ彼ら二人に視線を送ると、エンドルが明らかに困惑している様子が分かり、溜め息を付きながら黙ってアンヘルの話を聞く。


「とにかく、エンドル殿との手合わせの詳細は3時限目に説明します。全員が彼と戦うワケではありませんが、気持ちの面でも準備はしておいて下さい。そうでないと確実に怪我しますからね」


一時は険悪なムードが溢れ掛けているにも関わらず、まるでそれがなかったかの様に3時限目である武術学の予定を伝えた。
それが始まるのは10時45分、カルロスは楽しみにしていそうな表情をしており、他の生徒達もエンドルを見て気を引き締める。


「そんなに固くならなくても良いよ。僕はただ単に君達の戦い方を知りたいし、共に敵の居所を掴む為に調査するんだから仲良くしたいっていう気持ちもある。だからリラックスしてて」


対する彼は気を楽にして欲しいと呼び掛け、緊張感が溢れる空気を柔らかくしようとしていると、1時限目の終了を表すチャイムが鳴った。


「では1時限目はこれで終わります。じゃあまた3時限目に」


アンヘルはそう言いながら退室し、エンドルも一礼をしてから201教室を出た。
生徒達が次の授業の準備に動いている中、エンドルは教室の中の様子をチラッと見ながらこう呟いた。


「この中に、僕が驚くくらいの実力者がいる…か」


ホームルームの段階ではそれらしい生徒は見受けられなかったが、おそらく自分にバレないように隠しているのだろう。
これは3時限目が楽しみだと思いつつ、にこやかに職員室へと足を運んだのだった。
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