Story.03≪Chapter.1-3≫

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≪サクレイド学院≫が道化会に襲撃されてから1日が経ち、時刻は7時30分。
登校中の生徒達や探検の準備に行き交う冒険家と傭兵達は、“何か”に対してざわめきながら≪クロスラーン≫の上空を見上げている。
マンションの出入口付近からその様子を見たミシェルも同じ様に見上げると、空中から映し出された大画面の映像に一人の老人が顔を出していた。
口周りが隠れる程の白い髭を顎の少し下まで生やし、オールバックにした灰銀の髪を背中まで伸ばした紫色の瞳を持つ、金色のラインが入った赤いマントを羽織った男性。
彼が≪サクレイド学院≫の創設者にして学院長―ファウンダットであり、語るのは昨日発生した道化会による襲撃事件だった。


『昨日(さくじつ)16時頃、道化会と名乗る仮面を被った集団が学院内に残った生徒と教職員達を襲い、怪我人が20人出ましたがいずれも命に別条はありません』


まず最初に、事件を起こした犯行集団の名称と学院内に出た被害状況から切り出した。
これはミシェルも目の当たりにした為、島民達に伝える範囲は何となく理解出来た。
朝の集会も同じ事を言うだろうと思い、視線を真っ直ぐに戻してから≪サクレイド学院≫へと足を運ぶ。


「あーっ!!ミシェルーっ!!」


その最中、後ろから聞き覚えのある甲高い声が街中に響き渡り、朝からうるさいと思いつつ振り向くと、クラリネが右手を上に振りながら駆け寄って来た。


「朝から元気な奴だな…」

「昨日ユリアンから聞いたよ!私が帰った後に学院を襲った奴らがいたんだって!?」

「ああ。昨日の夜のメールで集会やるって書いてあったろ?たぶんその話が出ると思うんだが…」

「何で私に連絡しなかったのよっ!!呼べばすぐに駆け付けられたのにーっ!!」


まるでこちらの話を聞いていないかの様に、クラリネは直接その場面に立ち入る事が出来ずに悔しがっていた。
あの時は電波を妨害する機械があった為、通信機器での連絡は不可能だったが、彼女が駆け付けた所で好転するかどうかは正直怪しい。
何故なら担任のアンヘルから仲間をサポートする側に回った方が良いと言われたにも関わらず、悪党を懲らしめたい思いで攻撃を仕掛ける時が多々あった。
加えて意味不明なセリフと無駄な動きが見られ、敵に隙を与えていると指摘されていた所を何度も目にし、実力としては平均をやや下回っている所か。
これが原因で一部の生徒からは気分を害されており、最悪邪魔だと思われるケースもあるからだ。


「ちょっとミシェル、聞いてるーっ!?」

「はいはい、聞いてるよ。悪かったな、連絡出来なくて。行くぞ。学院長も集会の時にその話するだろうから」

「私も軍事学院の生徒なのよーっ!ちょっとくらい頼ったって良いじゃなーい!!」


何も知らないとこういう反応が来るのか、朝から騒がしいクラリネにミシェルは呆れながらも、共に≪サクレイド学院≫へ向かって行った。

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時刻は8時、≪サクレイド学院≫の集会は基本的に各学年が使う教室で行い、今回は学院長であるファウンダットが立体映像(ホログラム)機能が付いた通信(リモート)を用いて全校生徒に語り掛ける。
登校中に見た外見に加え、金色のラインが入った赤いマントの中に濃い灰色のスーツ姿を身に纏い、青いネクタイと黒い革靴を装着している彼の表情は実に深刻な雰囲気を漂わせていた。


『道化会を名乗る者達は3年の生徒達を傷付け、一部の2年の生徒達にも危害を加えようとしていた。奴らが言うには、狙いはこの島に伝わる神子であり我が教え子であるリヴマージ・C・クロムヘルの抹殺。しかし道化会は闇の勢力の残党と、聖冥諸島の現状に不満を持つ者達で構成されており、それが真の目的かどうかは分からぬ。彼女を巻き込ませる事で、私を含む10の有力貴族を陥れようとしている可能性もあるが、どんな事情があろうと、この島々の要人の死という最悪な事態は避けなければならない』


軍人は自らの領土を守る為、民を守る為、そして“貴族”や“王”と呼ばれる存在を守る為にあり、大義の為ならば自ら危険を冒してまで任務を遂行する。
聖冥諸島の全ての島民達にとって“貴族”は有力貴族達を示し、アイドライズの島民達にとってリヴマージは“王”を上回る程の最重要人物。
サクレイド学院に登校している生徒達は、一人の軍人として最善の行動をしなければいけない事を再認識させられる。


『この件に関しては既に全ての有力貴族と防衛局ピュアリティ・クラウン、海洋保安組織ポセイドンに通達しておる。この者達も、そなた達の助けとなり“力”となってくれるであろう。そしてアヴェンジットにあるジャスティスギルドからも、協力者を用意してくれたそうだ』


するとファウンダットが一通り言い続けた後、左を向いては誰かを手招きしていた。
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