Story.03≪Chapter.1-3≫

「たぶんだが、道化会のボスは“仮面の悪魔”っていう革命者。俺が見たのはその部下の“粛清の炎”って奴だ。道化会は全員仮面被ってるから顔も分かんねぇし、“仮面の悪魔”も“粛清の炎”もコードネームみてぇな名前だから本名も分からん」

「正体を晒す気はないってのも厄介ね」

「それと、闇の勢力の残党と聖冥諸島の現状に不満を持ってる奴らの集まりだって言ってたから、有力貴族にも話を聞く必要があると思うんだが」

「予想以上に面倒な連中ね…」


ミシェルが現時点で得た道化会の情報を伝えると、シュリは大きく溜め息を付いた。


「闇の勢力はともかく、この島々の現状に不満を持ってるっていうのは気になるわ。他の島民達にも聞いておいた方が良いんじゃないかしら」

「有力貴族に限った事じゃねぇのか…」

「一般人同士の問題ってのもあるけど、有力貴族の人達に聞いたって答えてくれないかもしれないって意味よ。不正や悪事なら尚更」


彼女の最後の一言に、ミシェルは“自分達の知らない所で企てている”可能性をセロンが示唆していたのを思い出した。
どれ程追求しても全てを語ってくれるとは思えず、何一つ確証を得ていなければのらりくらりとかわされる可能性も十分に有り得る。
有力貴族に聞けば道化会の全容も明らかになりそうだと思っていたが、やはりそう簡単にはいかないか。
すぐには解決出来そうにない件だと気付かされ、シュリは「うーん…」と考え込んだ後、ミシェルにこう言った。


「…そうね、隠密工作部にも有力貴族について調べるよう私が伝えておくわ」


隠密工作部、それはリコリスの夫、もしくはその部署の部長の命により聖冥諸島を旅し、全ての島々の現状をリコリスに伝える役目を持っており、時には有力貴族などの要人を護衛として就かせる事もある。
護衛の経験者ならば何かしらの裏事情も掴めていそうな気がするので、そちらはピュアリティ・クラウンに任せる事にしたミシェル。


「ああ、何か分かったら連絡してくれ。俺だけじゃなく、学院の方にもな」

「分かったわ。ミシェルも、ちゃんと先生方の指示に従うのよ」


いたずらっぽく笑みを見せながら言ったシュリの後半の一言に、ミシェルはムッとしながら目を逸らした。
屋上からリヴマージ達を助け、実力のある同級生達と共に“粛清の炎”を追い詰めたが、逃走の阻止の為に発砲しようとしたカルロスがウォルフに止められた事を思い出したのだ。
後にセロンが“反射(リフレクト)”の効果を持つ炎を発したと答えてくれたものの、それをもっと早く言って欲しいモノだ。
そしてリヴマージと四王座に対しては敬意を払っているが、他の生徒に対しては何処か冷たい態度を示している。
たとえ厳しくしようと思っていても、2年の副担任であるのならもう少し対等に見たらどうなんだと直接告げた事が何度かあった。
…その度に衝突もあり、同級生のみならず先輩の3年生や後輩の1年生に苦言を受けた事もあったのだが。


「あら、何かあったの?」

「……別に」


それを知らなさそうな顔をするシュリに、ミシェルはこの話を切り上げるべく弁当のおかずを食べ切った。


「ごちそうさま」


主食も完食し、紙製の箱を捨てた所で自室に戻り、パソコンを立ち上げてからしばらくしてメールが受信された。
誰からだろうと思いつつそれを開くと、≪サクレイド学院≫からの公式メールであり、明日の8時から学院集会を行うと書かれていた。
夕方の襲撃はやはり教職員達も非常事態だと感じ、全学年に伝達と解決の究明を求めているだろう。


「やれやれ、明日も早いのかよ…」

「学院からのメール?」

「ああ。明日の8時に集会やるってさ」


その内容は彼女の後に弁当を食べ切ったシュリも目にしており、学院内も対応を急いでいると感じていた。
それまでに何か一つでも重要な手掛かりが見つかれば良いのだが、そう思いつつミシェルは明日の準備に取り掛かったのだった…。
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