Story.03≪Chapter.1-3≫

すると首元と胸部、裾と袖口にオレンジのラインが入った薄いオレンジのジャケットの中に黒のワイシャツ、灰色のショートパンツを穿いて腰に二つの黒い棒が入ったホルダー付きの黒いベルトを装着して黒いロングブーツを履き、背中までストレートに伸ばした黒髪の女性がいた。
彼女の手には銀色の大きなバッグを右肩に掛けている事から、ここに来る前に何処かへ行って来たのだと推測出来る。


「あ、シュリ姉」


ミシェルの呼び声に女性―シュリはこちらを向き、緑の瞳に映った彼女とシェルマリンとカイザーの姿に笑みがこぼれた。


「ミシェル、シェルマリン、それにカイザーも」

「話は既にシェルマリンから聞いた。シュリ姉が俺ん家に泊まるってな」

「ええ、そうよ。まさか学院内で事件が起きるなんて思ってもいなかったわ」


シュリも≪サクレイド学院≫での襲撃を耳にしており、詳しい話は部屋の中で、とミシェルを手招きした。


「シュリ、私が戻るまでの間、ミシェルを宜しくお願いします」

「分かったわ。こっちも何かあったら連絡する」

「んじゃ、また明日な」

「ああ」


そうして防衛局本部に戻るシェルマリンとカイザーと別れ、ミシェルはシュリと共に自宅へと足を運んだ。
マンションは10階建てだが、彼女が住むのは5階にある505号室。
自宅の位置は、中層辺りにすればどの階層でも有事の際に対処しやすいというシェルマリンの案で決まった様なモノである。
床と天井以外は透明の壁とドアで出来ているエレベーターを使い、505号室に辿り着いてはミシェルが網膜認証と魔力チェックで鍵を開け、シュリと共に入った。

それから30分後、制服から黒のスウェット姿に着替えたミシェルは、シュリが銀色の大きなバッグから取り出した二つの弁当をテーブルに並べる。


「これ、何処で買って来たんだ?」

「ナチュラリアンのハーヴェスよ。畑で食い荒らしている獣型の魔物を倒して来た帰りにね」


ナチュラリアンとは、4つに分断された聖冥諸島の中では一番自然に溢れ、農村も多い南の島。
分断戦争ではアイドライズと同じく闇の勢力の手から逃れ、その前から軍事設備が多く備わっている為、避難所としても利用されていた事からナチュラリアンの島民の中には分断前からの生き残りが多く在住しているのだ。
ハーヴェスはその島の中で一番大きく、“農耕都市”と言われる程農業が盛んな街の事であり、シュリが購入したのはその街で収穫された米や野菜、漁業で捕れた魚をメインとした弁当である。
二人が向かい合わせになる様に席に着いた後、「いただきます」と言って夕食を取り始める。


「それで、学院で何があったの?」


最初はやはり、シュリが放課後での出来事についての問い掛けだった。
これは彼女が率いる特殊殲滅部として、聖冥諸島を脅かす脅威となるか否かの判断基準とも言えるので、ミシェルは自分が見た事を包み隠さず話した。
仮面を被った黒いローブの者が突如怪物へと姿を変えた事、即座にピュアリティ・クラウンに連絡を入れようとしたら電波が妨害された事、そして道化会と名乗る集団が神子であるリヴマージの命を狙っていた事…。
おまけに電波を妨害させた機械は、敵と見做した者に対する攻撃手段を持ち合わせていた事に、シュリは「なるほどねぇ…」と頷く。


「ヒトから怪物に姿を変えた…かぁ。確かにそんなヤツが近くをウロついてたら、放っておくワケにはいかないわね。その間にリヴマージが狙われた、と」

「リヴに関してはカイザーとレヴィンが守ってたし、俺もそいつらがいたグラウンドまで間に合ったから無事で済んだんだが…」

「また襲われる可能性もあるのね」


死者は出なかったとはいえ、事件の発端である“粛清の炎”を取り逃がしたのは事実。
シュリの言う通り、後日再び襲撃される恐れもあり、道化会の情報が少ないままでは被害を抑えられない。
放課後でのアンヘルの話によれば、学院の生徒もその集団に関する調査に参加する様なので、更にリヴマージが危険に晒されるリスクも高まるだろう。
彼女自身、自分の身は自分で守れる“力”を身に付けたいと入学式で言っていたものの、無茶な案件でなければ良いのだが。
8/16ページ