Story.03≪Chapter.1-3≫

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時刻は18時5分、この時間になっても帰って来ない生徒を心配したのか、保護者と見られる大人達が校門の前で待っており、自らの子供が姿を現すとその名を叫びながら駆け寄った。
ある大人は連絡もせずに何をしていたのかと怒鳴り、またある大人は涙を流しながら我が子の無事を喜んでいた。
いずれも心配していた事の表れであり、生徒から謝罪の声が多く飛び交っていた。
これが本来の家族の在り方なのか、記憶を失った時から親の顔が分からないミシェルは、その光景をただ見ていた。


「ミシェル!」


すると彼女にとって聞き覚えのある女性の声が右方向から響き、そちらに目を向けると白衣を纏ったシェルマリンがこちらまで歩み寄って来た。


「シェルマリン、悪い。連絡しようとしたら電波が妨害されちまって…」

「全て3年生や教職員の方々からお聞きしました。大変でしたね…。貴方も含め、死者が一人も出なかったのが幸いです」


彼女も傷を負った3年生の治療の最中に事情を聞いている様で、全員無事に帰宅出来た事を喜んでいた。


「全くだ。とんでもねぇ奴らが来ちまったモンだぜ」


すると後ろからカイザーがワイヤレスイヤホン型の通信機器を切りながら近付いて来た。


「カイザーの方は誰も迎えに来ないのか?」

「さっきお袋から、“シェルマリンと一緒に帰りなさい”っていう連絡が来てな」

「えっ?俺が住むマンションのルートとは違うぞ?」

「その事なんですが、ミシェルを送った後に私がカイザーと一緒に本部に戻ります。その後、道化会についての会議もありますので帰りは明日になってしまいますが、代わりにシュリが泊まる事になりました」


どうやらシェルマリンはピュアリティ・クラウンの局長であるリコリスに呼び出しを受け、今回のサクレイド学院の襲撃による会議がある様だ。
無理もない、相手は神子のリヴマージを殺そうとした上、他の生徒も襲ったのだから、未知の敵とはいえ聖冥諸島を脅かす存在だと判断したのだろう。
そして彼女の代わりに泊まるというシュリは、特殊殲滅部というリコリスからの司令を受けて犯罪者と今後脅威となる存在の排除が許された、唯一の部隊を率いる隊長に任命された女性の事だ。
彼女はシェルマリンの友人であり、ミシェルとも記憶を失った時からの知り合いでもある為、今夜の案に異論はなかった。
そうして3人は校門を通り、ミシェルが住むマンションへの帰路に足を運ぶ最中、彼女はふと思い出してカイザーに目を向ける。


「なぁ、カイザー」

「ん?」

「“粛清の炎”って奴から逃げなかった理由なんだけどよ、リヴとレヴィンは分かるけど、何でお前も名誉に関わるって言ったんだ?」


グラウンドでの出来事について神子と有力貴族の話題は上がったが、カイザーの母親のリコリスが局長を務めるピュアリティ・クラウンに関しては全く触れていなかった。
聖冥諸島を悪の手から守る為の防衛局ではあるものの、有力貴族の一員でないが故に恨みの対象ではないからだろうか。


「防衛局は有力貴族と大いに関わりがあるし、島民からも信頼と支持を得ているからな。局長の息子である俺が島民を見殺しにするという不祥事を起こせば、困るのはお袋だけじゃねぇ。局員達も誹謗中傷を浴びせられ、下手すりゃ有力貴族達に見捨てられる羽目になるだろうな」


回答を聞くと、カイザーは“局長の息子”としてではなく、自身もピュアリティ・クラウンの一員という意識を持っている様に思えてきた。
実際はまだ所属していないが、局員達とも少なからず関わりを持ち、将来も見据えている様な感じもする。
細かい事情を知らないシェルマリンに、ミシェルがこっそりと彼が敵に自分と仲間達の命の選択を迫られたと伝えると、シェルマリンは驚きの表情を浮かべた。


「そんな事があったんですね…。これは道化会について徹底的に調べ上げる必要性を感じます。本部に戻りましたら、私が真っ先にリコリスさんにお伝えしましょう」

「ああ、頼む。シュリ姉には俺が伝えとく」


今回の出来事は、会議に参加しないシュリにも知らせなければと思っている内にミシェルが住むマンションに到着した。
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