Story.03≪Chapter.1-3≫

フィデリー家は先祖代々アイドライズに伝わる神子の守護者として、レヴィンは父親―ニール・A・フィデリーと共にリヴマージを守り続けている。
いわばSPの様な存在であり、彼女の抹殺を図る者にとっては邪魔だと感じているだろう。
ビューティリス家はこのアイドライズの統治を任されており、エリザベートもその家系に連なる人物の一人。
彼女の父親であるアロガント・F・ビューティリスは10代目の当主として、割と高慢な部分はあるものの役目はしっかりと果たしている。
ピオニーア家は、ミュレイの父親でありバラッドの伯父であるラッセル・O・ピオニーアが北の島―ガーディアナに溢れる瘴気の一部を除去したとして有力貴族の仲間入りを果たした。
以後、完全除去の為にその島の南東とアイドライズを行き来し、再びヒトが住める環境にするべく尽力している。
そしてファウンダットはここにいる全員が知っての通り、このサクレイド学院の創設者にして学院長。
苗字こそ不明ではあるが、世界最高峰の軍事学院を築き上げたとして他国から信頼を寄せている事から、彼も有力貴族の一人として数えられている。
挙げられた名家は全て、島民に恨まれる印象はなさそうに思えるのだが…、


「私達島民の知らない所で、何か企てているかもしれない。道化会はそれを知っての犯行の可能性もあるワケだね」

「出来れば疑いたくないけど、有力貴族の皆さんを調べる必要もありそうですね」


悪事を隠していると見たセロンの一言の後、廊下から聞き覚えのある男性の声がし、直後にアンヘルが201教室に戻って来た。


「アンヘル先生、まだいたんですか…」

「君達がなかなか帰らないから、セロン先生と何を話してるのかなって思って陰ながら聞いたよ」


どうやら生徒達を心配する反面、有力貴族達の内情について興味を持っていた様だ。
アンヘルはそれを踏まえるかの様に、一度レヴィンとリヴマージに視線を送る。


「レヴィン、リヴマージ、皆に内緒で何か計画でも立てているんじゃないだろうね?」

「先生、何言ってるんですか…。俺は別に隠し事なんてしてませんって」

「そうですよ!悪事だなんて考えた事もありません!」


レヴィンは苦笑しながら、リヴマージは必死に否定している姿に、アンヘルは「ふふっ」と笑みがこぼれた。


「冗談だよ。正直、僕も生徒を疑いたくないし、有力貴族の皆さんも疑いたくない。分断戦争が終わって850年間、大規模な戦争がないのもその人達のおかげだしね」


ただ単にからかっていただけの様な発言に、リヴマージは「もう、先生ったら…」と恥ずかしそうに返した。
それはともかく、彼の言う通り聖冥諸島を統治する10の名家の有力貴族により、島民達は豊かに暮らす事が出来ているのは間違いない。


「だけど裏で何かやっている可能性もあるから、こっちも防衛局の皆さんに情報提供を求めておきましょう」


しかし念には念を、無実を確定させる為にも徹底的に調べるつもりでいる様だ。
フィデリー家の一員であるレヴィンは家族の事情まで探られるのかと苦笑いをし、チラッとカイザーに視線を送った。


「調べるのは俺じゃないぜ?」

「わ、分かってるよ」


まるで関係者なのに関与を否定したと思わせる発言に、レヴィンは目を逸らした。
その後、アンヘルはミシェル達10人の生徒とセロンに言いたい事はないかと聞くと、全員が“ない”という反応を示した所で締めに入る。


「じゃあ今日の出来事は、明日改めて話します。いない人達にも事情を説明しないとね。この時間までお疲れ様」

「…ったく、カイザーだけ居残りの筈なのに俺らまで残るなんてなぁ」

「何もかも全部道化会っていう奴らのせいだーっ!!」

「そうだそうだー!」


時刻は18時、陽は東に沈んでいく時間帯になり、ここまで学院に残っていたカルロスとバーンが騒ぎ始めた。
またバカコンビがうるさくしていると、ほとんどの生徒達が呆れた様に溜め息を漏らすが、今日に限っては道化会による襲撃で結局は居残りになってしまった。
ミシェルもこれでやっと帰れると思いつつ、アンヘルとセロンに帰宅の挨拶を済ませてから201教室から出て行った。
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