Story.03≪Chapter.1-3≫

それなのにレヴィン達はグラウンドから脱出しようとせず、ミシェル達が来るまでずっと“粛正の炎”と対峙したという。


「したくても出来なかったんだよ。あんな事を言われちまったらな」

「あんな事?」


どうやら駆け付けるまでの間に何かあった様で、カイザーは一度リヴマージに視線を送っていた。
彼女もレヴィンも、彼の一言を認めるかの様な反応を示していたので、ミシェル達7人の生徒とセロンは理由を聞く。


「私達もカルロスが言ったように、カイザーのテレポートでグラウンドから出たかったの。だけど“粛正の炎”っていうヒトがね、こう言ってきたの。『貴様らが学院から逃げれば、我々は残った生徒と教職員を始末せねばならない。たとえ死人が出なくとも、この事を外部に知られたらどうなるか、分かっているだろうな?』…ってね」


要するに、仮面を被った黒いローブの者達はリヴマージを確実に始末する為のオトリではなく、彼女以外の生徒達と教職員達を人質にする為の要員らしい。
敵の考えにアンナは2階に駆け付けた時の出来事を思い出し、戦慄が全身を走った。


「その為に3年生の人達を攻撃したって言うの…?」

「逃げられないのも納得だわ…。私もあの場で他の人達の命を天秤に掛けられたら、迷わず残る事を選ぶわ…」


自分と仲間、優先すべき命の選択に迫られた時、ヒトは思い立った行動から一度中断する事になる。
ステファニーは確実に他の生徒と教職員の命を選ぶだろうが、リヴマージはどう思っていたのだろうか。


「もちろん私も皆を殺させない為にグラウンドに留まったわ。レヴィンもカイザーもそうだよねっ?」

「ああ、俺もそれを言われた時点で逃げる事をやめたんだ」

「それに、リヴだけでなく俺とレヴィンの名誉にも関わる事だしな」


彼女とレヴィンもステファニーと同じ意見だが、カイザーはもう一つの理由があった。


「道化会は闇の勢力だけでなく、この島々の現状に不満を持つ奴らで構成されている。闇の勢力は分断戦争絡みの復讐だと思うが、不満を持つ奴らは何だか分かるか?」

「不満…、何が不満なんだ?」

「俺に聞かれても分かんねぇよ…」


彼の問い掛けにバーンはワケが分からず一度カルロスに目を向けると、彼も答えがなかなか出て来ず悩み始める。
他の生徒もこれまで学院で学んだ事や生活など、自分の目で感じた事を振り返りながら考える中、ミシェルがふと思い出した様な表情を浮かべた。


「あ、あれか?たまに学院に来るあのハゲが、コロシアムのチャンピオンにひたすら金を出しているにも関わらず、ブランバード派閥に対抗出来なくてコマンダルの島民から不満が出ているとかそんな所か?」


聖冥諸島の西の島―コマンダルは、分断戦争の時に一時は闇の勢力に占領されたが、後に光の勢力が南側を取り戻す事に成功。
それから当時の有力貴族と戦士達が残りの領土を奪還すべくキャンプ地を立て、長い時を経て≪アヴェンジット≫という大きな街にまで発展していった。
現在は彼女が言う“あのハゲ”、もといジャスティン・S・アヴェンジットが統治し、闇の勢力を率いた四大魔女の一人の名を冠する『魔王ブランバード』に対抗すべく、その街にある闘技場―≪エンシューズコロシアム≫を利用して戦士達の育成に励んでいる。
魔王ブランバードと配下や関係者であるブランバード派閥が拠点とする要塞の場所は掴めたものの、その先の成果が得られず税金の無駄遣いだという島民からの声を、ミシェルは少しばかり聞いた事があった。
これなら闇の勢力の残党と聖冥諸島の現状に不満を持つ者達の思惑が一致しそうな感じがするが、エクセリオンはアイドライズを、それもこのサクレイド学院を攻める意図に関して違和感を感じている。


「あのハゲって、ジャスティン殿の事か…。それだとしたら、直接アヴェンジットを攻め込めば良い話だろう。わざわざアイドライズまで来て、リヴを狙う理由なんか…」

「いや、ミシェルは良い線を行ってる。それを簡単に、大雑把に言えば有力貴族絡みだ」


しかしカイザーはミシェルの話を元に、単刀直入で答えを出した。
それを聞いたユリアンとアンナは目を見開き、セロンは「ふむ…」と考える仕草をした。


「有力貴族絡みって…、あの人達が何をしたって言うの!?」

「この島に住む有力貴族って、フィデリー家とビューティリス家とピオニーア家と…あとファウンダット学院長よね。悪い事をしたって情報はなかった筈だけど…」

自分達が知る段階では、アンナの言う通り何かしらの悪事や不祥事を起こしたというニュースはない。
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