Story.03≪Chapter.1-3≫

その人物はカイザーが内ポケットに入れてある棒状の小型カメラで撮影しており、映像の付いたデータはラウネとピュアリティ・クラウンの関係者に送って情報提供を求めている様だ。
いつの間にかそんな事を、しかし何もないよりかはマシだと誰もがそう思っている。


「“粛正の炎”って…、明らかに本名じゃないよね」

「コードネームの類(たぐい)なんじゃない?」

「これじゃあ、探すのも難しそうね…」


…とはいえ、正体を明らかにするには情報が少な過ぎるので、お手上げと感じさせる様に溜め息を漏らすステファニーとユリアン。


「“仮面の悪魔”っていうのもそうだね。そこは防衛局やジャスティスギルドに調査協力を求めておくよ」

「調査協力?依頼じゃなくて、ですか?」

「自らの拠点を襲撃して来た相手を探るのも、相手の攻撃から守るのも軍人の役割の一つだよ。ここも君達からすれば“拠点”も同然。この件のお礼はきっちりと返さなくちゃ」


まるで“やり返せ”と言っている様なアンヘルの発言だが、これについては反対する生徒はいなかった。
特にカルロスは「そうこなくちゃな」とやる気に満ちており、道化会との戦いに意欲を示している。
攻撃よりも治療に徹するタイプのステファニーも、これ以上の被害を出させない為に努力すると決意する。


「そうと来たら、明日は一斉に仮面の奴らとやり合うんだな!」

「相手の戦力も拠点も分からないから、そんなムチャクチャな事はしません」


バーンは明日が勝負だと意気込んだが、あっさりとアンヘルに否定された。
「何でだよっ!?」と騒ぐ中、当然だろうと思わせる様にエクセリオンは溜め息を漏らす。


「相手はどの事件の記録にも全く存在しない集団なんだ。情報もないまま攻めるのは不可能に近い」

「そ、そうだけどよ…!」

「バーン、早めに解決させたい気持ちは分かるけど今は情報収集が先」


確かに過去の歴史を振り返っても記されていない未知の敵が相手なのだから、アンヘルとしては慎重にいきたい所だろう。
道化会について現時点で分かっているのは、分断戦争の末に散り散りとなった闇の勢力の残党と聖冥諸島の現状に不満を持つ者達で構成され、その集団に所属しているメンバーの事を“会員”と称している。
会員達はそれぞれの仮面を被っているとの事で、今回の事件を引き起こした怪物達を率いていたとされる“粛正の炎”も髑髏の仮面を装着していた。
その者の狙いは神子であるリヴマージの命であるが、この島々の現状に不満を持つ者がいるとなると、いきなりこの学院を襲撃するのはどうも不自然に感じられる。
おまけに相手が撤退する時、カルロスが逃がさないよう発砲しようとしていたのを副担任であるウォルフに止められたのも気になる所。
やはり情報不足が否めないと誰もが感じた直後、前方の自動ドアが開く音がしたと同時にセロンが入って来た。


「おや、まだ話の途中でしたか?」

「あ、セロン先生。もうそろそろ終わりますので、入っても大丈夫ですよ」


おそらくウォルフがカルロスを制止した理由を話しに来たのかとミシェルはそう思っていたが、邪魔だと感じたセロンの入室を許すアンヘル。


「じゃあ、怪物の詳細やミシェル達が破壊した機械については明日伝えるよ。今日はもう遅いしね。一応、学院周辺と通学路は自警団や傭兵が見回りについているから、寄り道しないで真っ直ぐ帰るように」


そう言ってアンヘルは201教室から去り、残されたのはミシェル達10人の生徒と後から入ったセロン。
そこでミシェルが、“粛正の炎”が撤退する直前の出来事についての話題に持ち込む。


「師匠、何でウォルフ先生がカルロスを止めたのか説明するって言ったよな?」

「おっと、そうだったな。俺にも教えてくれよ」

「俺もミシェル達が来る前、“粛正の炎”に攻撃を仕掛けましたが効きませんでした。セロン先生はそいつについてどう思っていますか?」


これは彼女とカルロスだけでなく、実際にグラウンドにいたレヴィン達も気になっている。
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