Story.03≪Chapter.1-3≫

時刻は17時、≪サクレイド学院≫の生徒用玄関付近では、ピュアリティ・クラウンの局員や傭兵達がミシェル達生徒によって倒された怪物達の遺体を運んでいた。
そんな中、白いワイシャツと鼠色のズボンの上に白衣を纏い、薄い紫のネクタイと黒いベルトを装着して黒い靴を履き、癖っ毛のくすんだ紫の髪を肩より下まで伸ばして一つくくりにした男性が1体の怪物をじっと見つめている。
垂れ目で半開きな目の形からして厳しそうな感じはないが、濁った赤い瞳に青白い肌、そして顔面には額の中央から左の頬まで曲線で描かれた様なツギハギに加えて常に笑みを浮かべ、他の者達とは異様な雰囲気を感じさせる。


「ケイン部長、学院内の怪物の遺体は全て回収しました」

「ご苦労さぁん。じゃあこいつらは僕に任せて、君達は警備の仕事に戻って良いよぉん」


武器は所持しているが、割とラフな格好をしている事から傭兵と思われる男性の報告に、白衣の男性―フラン・ケインがそう言った。
変わった喋り方に傭兵は「は、はい…」と返し、校門付近へと走って行った。
直後に、彼と入れ替わる様に青いブーツを履き、白の丸襟ブラウスに裾の長さが膝を覆う程の長さのある水色のスカートを身に纏い、その上に群青色の長袖のカーディガンを羽織る、水色の瞳を持ち顎よりちょっと下辺りの青い髪をショートボブにしている肌が色白の女性―シェルマリンが歩み寄って来た。


「怪物の回収は終わったようですね」

「たった今ねぇ。シェルマリンちゃんこそ、怪我人の様子はどうだったぁ?」

「2年生の方による治療と、保健室の医療設備のおかげで大事には至りませんでした。後程、病院で検査を受けさせる予定です」


先程の傭兵と違って友好的な態度を示す理由は、フランもシェルマリンと同じくピュアリティ・クラウンに所属し、化学開発部の部長を務めているからだ。
その名の通り、主に化学実験や薬品の製造の役割を持ち、他にも法医学による死因の特定もこの部署で行われている。
彼の側にある怪物をよく見ると、生徒か学院関係者の誰かに付けられたであろう首の致命傷がある。
会話をしながらそちらに目を向けると、仮面の口部分から鋭い牙が生々しく生える不気味な姿に、思わず両手で口を覆った。


「フラン部長…、これは…」

「ここの先生のウォルフくんとセロンくんが言ってた、例の化け物だよぉ。最初はヒトの姿だったけどぉ、目が合ったらこぉーんな姿になったってさぁ」


黒いフード付きのローブを全身に覆い、顔に仮面を付けた人物が彷徨い、こちらと目が合った瞬間にいきなり右肩が膨れ上がり、他の部位も膨脹する様に膨れ上がった勢いでローブが破けた。
仮面だけが装着されたままだが口の部分が多くの鋭い歯、そして体毛のない黒い肉体と鋭く尖った爪を持つ四足歩行の怪物と化し、そのまま襲い掛かって来たとの報告だったとフランはそう語った。
わずか数秒で目を逸らしたシェルマリンに対し、彼は注射針が付いた小さく細長い容器を怪物の左の二の腕に刺し、血液を採取する。


「さぁてさて…、何でヒトからこぉーんな姿になったのか、このぼぉくが解明してあげるねぇ」

「息絶えたのに、ですか?」

「息絶えても体内に残っているモノがあるんだよぉ。例えば、薬品の成分とか魔力の残骸とかねぇ」


今回も化学と法医学の観点で、ヒトの姿から怪物に変貌した原因を導き出そうと考えているようだ。
それのおかげで長期に亘りそうだった事件の解決も、短期間で終わらせた事が何回もあったのだから。


「では、そちらの方はお願いします。何か分かりましたらご報告を」

「了解だよぉん」


怪物の調査は彼に託し、シェルマリンはこの場を後にしつつワイヤレスイヤホン型の通信機器でリコリスに繋ぐ。


「シェルマリンです。こちらの事態は既に収束し、怪物の正体に関しましてはフラン部長が調べる意向です」

『そう。神子殿の様子はどう?』

「命こそ狙われましたが、カイザーとレヴィンが保護してくれたおかげで今は落ち着いています。それと、ミシェルも学院に残っていました。彼女については私にも分かりません。教職員の方々はこれから学院に残った生徒を集め、今後の方針について話し合いを行うそうです」

『…という事は、ミシェルもカイザーも帰りが遅くなるって事ね。分かったわ。シェルマリンは怪我した生徒達の様子を見つつ、二人の帰宅に同行してちょうだい』


リコリスの言葉にシェルマリンは「分かりました」と受け入れ、通信を切った。
怪物達は何の為にサクレイド学院を襲い、リヴマージの命を狙ったのか、それらを知るにはミシェル達の報告を待つしかないのであった…。
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