Story.02≪Chapter.1-2≫

しかしこの島々は10人の有力貴族達により統治され、そのおかげで秩序と平穏が保たれている。
おまけにその者達の中には、分断戦争に参加した戦士や貴族、戦争が終結した後に復興や敵の侵攻の妨害に貢献した人物の末裔もいる事から、闇の勢力の残党にとってはそちらの方が邪魔な存在だと認識出来る。
“現状に不満を持つ者”がいるとしても、神子のリヴマージは政治に関われる年齢ではない為、命を狙う理由が予想出来ない。


「我は“仮面の悪魔”と呼ばれし革命者の代行を務める者、クアトロ・レイドの一人……“粛清の炎”」


髑髏の仮面を被った人物―“粛清の炎”がクアトロ・レイドの役割と同時に名乗った瞬間、ミシェル達8人の周囲に炎が広がった。


「ここまで知られたからには、生かしておけない……という意味で良いのかな?」


セロンは自らの武器である黄金の刀を出現させ、リヴマージをレヴィンとカイザーに託しつつミシェルの隣まで歩み寄る。
それを見た“粛清の炎”は、再び両手に炎を纏わせて周囲に熱気を放出させる。


「我の狙いはあくまでそこの神子のみ。…だが邪魔をするのであれば、命はないと思え」

「言うと思ったわ。セイクリッド・レイン!!」


その人物の言葉を返す少女の声と共に、空から無数の光り輝く粒が雨の様に強く降り注ぎ、相手の両手と周囲の炎を一瞬の内に鎮火させた。
この声は観客席から、それも聞き覚えがあるミシェル達8人は一斉にそちらに向くと、仁王立ちで立っているミュレイの姿があった。
彼女の隣には、若干癖っ毛の黒髪を少し長めのショートカットにしていて紫の瞳を持ち、黒いワイシャツと灰色のズボンを身に纏い、その上に白衣を羽織り黒い靴を履いた男性がおり、眉間に皺が寄った状態の鋭い目付きでこちらを見ている。


「ミュレイ会長、ウォルフ先生まで…」

「私がこの街の自警団とピュアリティ・クラウンの皆さんに連絡したら、1分もしない内に到着してくれたわ。後は、このグラウンドだけね」


もう2階に留まる必要はないと思わせる様な自信満々の表情に、「そ、そうですか…」と返すエクセリオン。
彼女の言葉を聞いた“粛清の炎”は、この場での戦いを放棄するかの様に背を向ける。


「……今日の所は退くが、我ら道化会の計画は既に始まっている。もはや逃げ場はないと思え、“穏健の神子”よ…」

「おっと、逃がさねぇぜ」

「銃を下ろせ、レパーター」


カルロスは今ならチャンスと見て銃口を向けたが、ミュレイの隣にいる男性―ウォルフ・I・ラースピラーの一言によりそちらを睨み付けた。
すると“粛清の炎”から激しい炎が巻き起こり、すぐに消えたかと思えばその人物の姿すら見えなくなっていた。
同時に気配も完全になくなった事から、逃げられたと舌打ちしながらウォルフを睨む。


「どういう事だよ、ウォルフ先生よぉ」

「逃亡を許しやがって…」

「カルロス、ミシェル、落ち着くんだ。何故あの人が止めたのか、後で説明する」


彼だけでなくミシェルも不満を漏らす姿に、セロンはすかさず制止する。
しかしそんな事は気にも留めないかの様に、ウォルフはレヴィンとカイザーとリヴマージの所へ近付く。


「ご無事で何よりです、神子様。……フィデリーとヴァリエンティナも、よくぞ彼女を守ってくれた」

「ウォルフ先生、アンヘル先生と他の先生達は…?」

「全員無事です。それとアンヘル先生から、『残っている2年生を全員201教室に集合せよ』との伝言を預かりました。私はこの後、ピュアリティ・クラウンから事情聴取を受けますのでこれで…」


レヴィンとカイザーを労いつつ、リヴマージに一通りの連絡を伝えた後、すぐさまグラウンドを後にしたウォルフ。
それを少し離れた位置で聞いていたミシェルは、溜め息を漏らしながらバーンとカルロスに視線を送る。


「おい、そこのバカコンビ。今朝とは関係ねぇけど、居残りが待ってるぜ」

「「げぇー、マジかよ…」」


任務(ミッション)の研修では自分達の勝利の筈なのに、結果的に学院に残る羽目になってしまい肩を落とす二人。
ミシェルとエクセリオンも、こうなっては仕方ないと思い他の生徒達と共に201教室へと向かって行ったのだった…。


To be continued.
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