Story.02≪Chapter.1-2≫

こちらとしても、今朝の任務(ミッション)の研修で人質役を務めたリヴマージは反省文の対象にはなっていない為、この時間まで残るとは思っていなかったから慌てるのも無理はない。
彼女を守護する一族の一人であるレヴィンと、ピュアリティ・クラウンの局長の息子であるカイザーが共にいるのが不幸中の幸いか。
しかし敵の増援となると、彼らもいつまで耐え切れるかが分からない所。


「師匠の通信相手は?」

「アンヘル先生だ。その人曰く、地階からグラウンドに向かおうとしている所を、例の怪物達に妨害されているとの事。管制室が襲撃されたらこの学院の防犯機能が大幅に失われるからね…」

「マジかよっ!って事はグラウンドはあの3人しかいねぇって事か!?」

「そういう事だね。皆、これからどうする?」


他の教職員達が足止めを受け、援護が期待出来ない中、セロンの問いに対して先に口を開いたのはカルロス。


「決まってんだろ?俺らもグラウンドに行くんだよ」


彼の好戦的な性格からして、予想通りであるが故に驚きの声はなかった。
むしろそれが一番の最善策であるが、いくつか問題点が挙げられる。


「屋上からグラウンドまで、普通に行けば数分は掛かる。それまでの間にまた例の怪物が現れるかもしれないし、この隙に2階も襲撃されるかもしれない。アンヘル先生達もまだこちらに来れそうにないみたいだし、もうしばらくは残った生徒達だけでこの学院を死守しなければならない事に変わりはなさそうだ」

「だったら2階の連中は普通に残れば良いじゃねぇか。今だったら外部の連中と通信出来んだろ?向こうへの連絡はそいつらに任せて、屋上のグループは俺がテレポートで一気にグラウンドまで飛ばす。短い距離だし5人だけなら楽勝だぜ。どうだ?これで文句はねぇだろ?」


カルロスにしては珍しい冷静な提案に、セロンは思わず目を見開いた。
≪テレポート≫とは、このサクレイド学院で学ぶ事が出来る風属性の中級魔法の一つに値し、術者自身が知る限りではあるが瞬時に好きな場所へ移動出来る。
魔力が高ければ移動距離も伸びる上、多くの人々をまとめてその場所への移動も可能なのだ。
今回の目的地と屋上にいる面々の人数を考えれば、敵の妨害も気にせずにレヴィン達3人を助けられるだろう。
急いで向かわなければならない展開に一人でも風属性の魔法が使える仲間がいれば、たとえ問題児と示唆されている者でもこれ程心強い事はない。


「どうした?早く決めねぇとリヴ達がやられちまうぜ?」

「……そうだね。ここは君の提案に乗るとしよう」


そして2階にいるメンバーの中に、有力貴族であるピオニーアの家系に連なる生徒が二人いる。
それが生徒会長のミュレイと副会長のバラッドであり、彼女達なら≪クロスラーン≫の自警団や傭兵達、更にはピュアリティ・クラウンへの通報も可能だろう。
そう思ったセロンはカルロスの案を受け入れ、ミシェルもピュアリティ・クラウンへの応援要請を2階にいるミュレイに託す。


「…というワケだ。防衛局の人が来るまで持ち堪えてくれ」

『分かったわ。貴方達も気を付けて』


そうして通信機器を切り、各々が次の戦いへの準備に取り掛かる中、エクセリオンはカルロスに視線を向けて呼び掛ける。


「カルロス、セロン殿に了承してくれたのは良いが、グラウンドに着いて早々発砲はするな。今回の事件を起こした張本人がいるかもしれんし、最悪本当にリヴが人質になっているかもしれん」

「分かってるよ。お前も心配性だなぁ?」

「敵の狙いがリヴの命なら、黙って見過ごすワケにはいかないだろ。神子を失ったらこの島はどうなるのか、少しは考えろよな…」


ふざけた様な返答にエクセリオンは愕然とし、この島が平穏に満ちている理由を独り言の様に呟いた。
分断戦争を引き起こした元凶と云われている“古の四大魔女”と大多数の闇の勢力の猛攻に遭いながら、アイドライズ島は光の勢力が守り抜いた。
それから今まで平穏に満ちているのは、代々神子が邪(よこしま)な存在を追い払い続けたからであり、現在の神子であるリヴマージは島民から崇められる存在であり守り人である。
彼女が殺されたら再び悪夢が訪れる、そんな言葉が出る中、カルロスの≪テレポート≫により5人は屋上から姿を消したのだった。
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