Story.02≪Chapter.1-2≫

「……ちっ、電波が妨害されたか」


時刻は16時、≪サクレイド学院≫敷地内にあるグラウンド、カイザーはワイヤレスイヤホン型の通信機器を用いてピュアリティ・クラウンに連絡しようとするも、耳に響くのはノイズのみ。
彼の側にはレヴィンと、白い宝石が付いた銀色の杖―≪ピースリード≫を握るリヴマージが周囲を見渡している。


「一体何なのよ、あの化け物…」

「あんなの生物や魔物に関するデータがなかったし、大昔に絶滅した生物に関する記録もなかった。カイザー、何か知ってるか?」

「知るワケねぇだろ。知ってたらこんな苦労しねぇし」


彼らがここに来る10分前、今朝行った任務(ミッション)の研修でミシェルとユリアンに人質役であるリヴマージが解放されたとして、犯人役を務めたカイザーは3階の第二自習室で反省文を書いていた。
そこへレヴィンとリヴマージが様子見として入室し、終わったら一緒に≪クロスラーン≫の喫茶店―≪スカイハイ≫へ行こうと誘って来た。
あそこはバーンの父親が営む場所の為、まんまと人質の救出を許したとして様々な事を言ってくるだろうと思い溜め息を漏らす。
しかし行くのは自分達3人だけだと聞かされると「仕方ないな」と了承し、反省文を2階の職員室にいる担任のアンヘルに提出してそこから出た時だった。
廊下にて黒いフード付きのローブを全身に覆い、顔に仮面を付けた人物の姿をレヴィンが見つけた。
すると気配を察知したのかその人物はこちらに向き、少し歩み寄ると視線はリヴマージの方へ。
「な、何ですか…?」と彼女が恐る恐る言い、レヴィンとカイザーも違和感を感じて一歩前に出る。
直後にその人物の右肩が急に膨れ上がり、他の部位も膨張する様に膨れ上がっては勢い良くローブが破けた。
装着されたままの仮面の口から多くの鋭い歯を持ち、体毛のない黒い肉体を持つ四足歩行の怪物に思わずリヴマージが悲鳴を上げた。
数多くの生物や魔物の情報(データ)が掲載されたサイトでも、古の書物からでも全く目にした事のない存在にレヴィンとカイザーも驚愕しながらも、魔力を練ってそれぞれの武器を出現させて構えた。
怪物が襲い掛かろうとした瞬間に炎の球が何処からか放たれ、頭に直撃して倒れ込んだ。
何が起こったのかと周囲を見ると、後ろからアンヘルが「やれやれ」と言いながら3人にこう言った。


―学院の警備システムを潜り抜ける不審者は只者じゃなさそうだね。君達はひとまず広くて安全な所まで避難しなさい。ここじゃあ、皆でマトモに戦うには狭いからさ―


確かに増援となると、場所の面積によっては狭い故に回避が難しくなる恐れがある。
特にレヴィンにとってリヴマージは傷付ける事を許されない神子であり、最も守るべき存在でもある。
カイザーは他にも同じ様な怪物がいるかもしれず、大本を叩くのが一番だと提案するがアンヘルに拒否された。
理由が先程述べた通りに加え、ここには最終学年であり1年先輩の3年生がおり、教職員も学院内に残っている。
既に異変を察知して行動している頃だろうと告げられると、一人の3年生の生徒が職員室に入って呼び掛けていた。
大本もその内出てくる、そう諭されるとカイザーは仕方ないと溜め息を漏らし、レヴィンとリヴマージと共に非常口を経由してグラウンドまで走って来たのだった。


「アンヘル先生や先輩達、大丈夫かしら…」


しばらく経っても誰も来ない事に、リヴマージは先輩達と教職員達の事を心配し始めた。


「そんなに心配なら見に行くか?」

「いや、さすがにまずいだろ。通信が繋がらないんじゃ、下手に動けない」


加勢に積極的なカイザーと慎重な姿勢のレヴィン、この二人の意見に彼女は無力さを感じている。


「……ごめんなさい、私ったら…」

「リヴ?」

「ここに入学して、自分の身を守れる“力”を身に付けたいって決めたのに、逆に二人に迷惑掛けちゃって…」


先祖代々神子を守護する家系であるが故に、何度もリヴマージと接してきたレヴィンは、彼女が島民達に守られる事の多い生活に嫌気が刺していたのを知っている。
一人の魔導師として、そして自分達と同じ一人の戦士としての実力を伸ばし、どんな時でも戦えるようになりたいと励んでいたのだ。
迷いは弱みを見せている様なモノ、そう感じ取った時…、


「ならばその“力”、見せて貰おうか」


不協和音の声色と共に、鋭い目付きに犬歯が鋭く尖った髑髏の仮面を装着して炎を思わせる様に赤い髪を立たせ、大きな赤いロングコートを纏った人物が3人の目の前に現れた。
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