Story.01≪Chapter.1-1≫

☆☆☆

時刻は15時50分、放課後の201教室の掃除を終えたミシェルは生徒用の玄関を出て帰路につこうとしていた。
親友のユリアンは4階のトレーニングルームで自身の筋力増強に励み、アンナは生徒会の会議に参加。
クラリネに至ってはこの4人の中でいち早く帰り、彼女が憧れているという古代の娯楽書籍のヒロインを目指すべく修行しているとの事であり、現在はミシェル一人きりである。
静けさが伝わるこの場所に、ふと背後から不穏な気配を察知し、ゆっくりと振り返る。


「ん?」


彼女が目にしたのは、黒いフード付きのローブを全身に覆い、顔に仮面を付けた人物だった。
この様子だと外見の年齢のみならず、男なのか女なのか見当が付かない。
しかし明らかにサクレイド学院の関係者ではなさそうだと判断したミシェルは、鞘に入れたままの≪斬蒼刀≫を左手でしっかり握り、右手は下ろしたまま警戒する。


「オイ、そこで何やってんだ?」


声を掛けると、仮面を付けた人物はゆっくりとこちらを向くが、言葉は発しない。
何者なんだこいつは、と不気味に感じた次の瞬間、その人物の身体が右肩から少し膨れ上がり、他の部位も膨脹する様に大きくなってローブがバラバラになる様に破けた。


「何だこりゃ…!?」


ミシェルも驚くその姿は、体毛のない四足歩行の怪物で、屈強そうな黒い肉体にいくつかの血管が浮き出ており、手足の爪も鋭く尖って伸びている。
顔の部分であろう仮面は装着されたままだが、唸り声を上げると同時に口の部分が開き、多くの鋭い歯を見せ付ける。
すると突如、跳び付く様に襲い掛かり、彼女は咄嗟に右に回避して刀を抜いた。


「やんのかてめぇ…」


明らかに敵対意識を持っていると感じ、睨みつつ構えながら刀身に水属性の魔力を纏わせる。
直後に再び怪物が跳び掛かり、ミシェルは相手の行動を見定めて背後に回って斬り掛かる。


「水蓮刃(スイレンジン)…」


背中を斬られた怪物は悲鳴を上げ、相手を左手で振り払うも空を切る。
当たれば弾き飛ばされるのは間違いなさそうだが、単調な動きでは見切りも容易く、次々と水の刃に傷が付けられる。


「大人しく…してろ!」


そしてミシェルは急所である首の部分に深い傷を負わせ、そこから激しい血を噴き出しながら怪物は倒れて動かなくなった。


「何なんだよ一体…」


刀を大きく振り払い、付着した血液を落としてから仕舞った後、この出来事をワイヤレスイヤホン型の通信機器でピュアリティ・クラウンに連絡しようとした途端…、


「きゃあああぁぁぁっ!!」


学院内からの悲鳴がこちらまで耳に届き、ミシェルは即座に生徒用の玄関から入って駆け走る。
階段を上って2階に着き、左に視線を送るとそこには、先程と同じ姿の怪物が別の生徒達と交戦している姿を目撃した。


「おいおい…、どうなってんだよ…」


この階層は主に3年生が使う教室と自習室があり、ミシェルからしたら1年先輩の生徒達が行き交っている。
最終学年の実力の平均は2年生よりも上だが、右を見れば傷を負っている生徒の姿も見られた。
幸い、側にいる二人の生徒による回復魔法で傷を癒し、別の一人の生徒が防御魔法を掛けつつ警戒している為、危機的な状況に陥る事はなさそうだ。
怪物の奇襲に対応出来なかったのか、それとも前線に出るタイプではない者を狙っての襲撃か、いずれにせよ外で同じ怪物を見掛けた以上、放置は出来ない。


「しょうがねぇ。あの会長と副会長を呼ぶか…」


自らが四王座でない事を機に、しつこく生徒会に入るよう勧誘してくる男女二人の顔を思い浮かべては溜め息を漏らしつつ、ミシェルは先輩達の救援に向かった。


穏やかな学院生活は、これにより静かに闇に蝕まれていく…。


≪Chapter.01 ~仮面の悪魔~≫


To be continued.
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