Story.01≪Chapter.1-1≫

人質役の拘束は解いたものの、終了と思わしき音やサインなどは示されていない。
隠し通路の中であるが故に、担任のアンヘルが確認出来ていないのだろうと思い、二人はリヴマージを連れて最初に降り立った部屋へと移動を始める。
必死に彼女を探す他の生徒達はこちらに気付かれぬまま、そして更なる障害も遭遇せぬまま完了に近付くその時…、


「…!?二人共走れ!」


少し後ろの様子を見たミシェルが、≪ティアマット・エンペラー≫を持つカイザーの姿を目にしてユリアンとリヴマージにそう言った。
その二人もちらりと見て驚き、3人は慌てて走って最初の部屋に入った。


「おめでとう。君達の勝ち…って言うべきかな。ミシェル、ユリアン」


するとそこに拍手をしながらこちらを見るアンヘルの姿があり、少し遅れてカイザーも部屋に入って来た。


「俺とレヴィン達が戦っている隙を見て、こっそり椅子ごとリヴを連れて行くとはな」

「ま、一番の力持ちなユリアンがいたからこそ、こちらの予想より早く助けられたってワケだね」

「“カイザーと戦って勝て”とは言ってねぇからな?先生」


まるで核心を突く様なミシェルの発言に、「そうだね」と苦笑いを浮かべるアンヘル。
後に研修終了の合図と思わしき鐘の音がこの電脳空間(バーチャルスペース)全体に鳴り響き、リヴマージが捕われた部屋にいたレヴィンとエクセリオン、バーンとカルロスが入室し、他の生徒達も続々とミシェル達のいる部屋に集まっていく。


「ミシェルーっ、ユリアーンーっ!リヴ達何処にいたのーっ!?」


甲高い声と共に、桃色の髪を左右に少しだけ白いリボンでツインテールの様に結い、後ろはそのまま肩の下までストレートに伸ばし、髪と同色の瞳を持つ女子生徒―クラリネ・P・シャイニーヴァースがミシェルとユリアンの元に近寄って来た。
彼女もミシェルの親友の一人であり、古の娯楽書籍の影響を受けて“正義の魔法少女”という存在を目指して≪サクレイド学院≫に通学しているとの事。
悪事を許さない気持ちは人一倍以上だが、実力は無駄な動きが多いのが原因らしく平均より下の方である。


「あー…、途中、隠し通路を見つけたからショートカット出来ただけで、何処にいたって言われてもだな…」

「えっ?隠し通路!?そんなのあったの!?」

「あたし達からしたらその先の部屋ね。最も、壁を壊して最初に隠し通路を見つけたのはあのバカコンビだけど」


ユリアンが苦笑しながらバーンとカルロスのいる方向に指を差すも、「私も行きたかったーっ!」と羨ましがるクラリネ。
研修の内容としては“捕われた神子を救出する”というモノなのだから、彼女もその場面に直接出たかったのだろう。


「あらあら。あの二人、違う意味で居残りになりそうね」


呆れながら呟いたのは、肌が少々日焼けし、灰色の瞳を持つ眼鏡を掛けた茶髪のポニーテールの女子生徒―アンナ・W・メモラブル。
彼女もミシェル達3人の親友であり、サクレイド学院の生徒会書記という肩書きを持つ生徒でもある。


「はは…、器物損壊の面でか?」

「まぁ、救出任務は状況によっては止むを得ない場合もあるから、それ程咎められるとは思えないけど」

「状況って?」

「今みたいな制限時間付きとか、監禁場所が大変な事になったりとかね」


今回はあくまで研修なので、生徒達の命に関わる程の事態は避けて設定している様だが、実際はそうはいかない。
常に何が起こるのかは分からない、それは救出だけでなく避難行動、そして戦場において当たり前の事であるのだから。


「はい、皆静かに」


するとアンヘルが2年生の生徒を呼び掛け、こちらに注目するよう呼び掛けた。


「知っての通り、今回の救出任務(ミッション)は成功。犯人役を務めたカイザーは放課後に反省文を提出してもらうからね」

「ちっ…」


担任の言葉に舌打ちをしていた所から、どうやらカイザーも自らが負けた後の事を予め聞かされていた様だ。
その様子を見たレヴィンとリヴマージは苦笑いをしていた所でチャイムが鳴り、生徒達はこの電脳空間から姿を消した。
9/11ページ