Story.01≪Chapter.1-1≫

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激しい風が吹き荒れる少し前、ミシェルとユリアンはカイザーやレヴィン達4人の動きに警戒しつつ、ゆっくりと椅子に座るリヴマージの所に歩み寄った。
銃声と武器の交錯の音が響く中、リヴマージは二人の存在に気付いて声を掛ける。


「あっ、二人とも」

「しっ!」


そこへミシェルが静かにするよう右手の人差し指を立てて口元に近付け、その後に椅子の周囲を見渡して罠(トラップ)の有無を確認する。
ユリアンも椅子での仕掛けの存在を調べるも、リヴマージが縄で縛られている事以外は何もない。
床にも何かないかと伏せながら探るミシェルは、真下に赤いランプが点滅する小さな装置らしき物を発見し、凝視すると複数のコードで接続された小型爆弾だという事が分かった。
驚きで目を大きく見開くも気持ちを落ち着かせ、右手の人差し指でそれを差しながら氷の魔力を集中し、指先から小さい吹雪を引き起こす。
爆弾がみるみると凍り付き、赤いランプが消灯した事から機能しなくなったのを確認してからゆっくりと身体を起こす。


「爆弾があった。けど俺の氷の魔法で凍らせたし、ここで何かやっても爆発しないから安心しろ」

「ばっ、爆弾…!?そんなのが仕掛けられたなんて…」


おそらくカイザーを倒さない、またはこの空間の何処かにあるだろう停止の為の仕掛けを作動しない状態で人質を解放しようとすると爆発するという犯人側の策だろう。
その仕組みにリヴマージは顔を青ざめるも、「さっき言ったけど凍らせれば爆発しないから平気だって」というミシェルの一言にホッと一息を付いた。
気温変化対策をされていない機械は急速な冷凍によって作動が止まり、全ての部品を交換しない限り機能しなくなる。
それがたとえ爆弾でも例外でなく、爆発を引き起こす火薬や発火装置も解凍すれば張り付いていた霜が水滴と化し、湿り気によって不発となるのだ。
即座に爆発させない方法を行ったミシェルに対し、ユリアンはただただ驚いていた。


「凄いね、ミシェル…。それ、何処で知ったの?」

「俺の知り合いの中に機械にめっちゃ詳しい奴がいてな。…それよりあっちは?」

「ああ、そうね。えっと…」


戦況はカルロスの銃口から風属性の魔力が徐々に高まり、何かを発すると感じたカイザーが彼に急接近している。
その最中にバーンがカードを2枚取り出してカイザーの妨害を行おうとしているのを見て、ミシェルとユリアンは互いを見合わせて頷く。
後にユリアンはリヴマージが座る椅子を両手で持ち上げ、捕まった彼女の驚きの声を上げようとした所で再び静かにさせるよう指示する。


「あいつらがぶつかり合った瞬間がチャンスだ。リヴ、声出すんじゃねぇぞ」

「わ、分かったわ」


そしてまた戦況を見ると、槍に竜巻の様な渦を纏わせながら突進するカイザーと、空気の球をひたすら魔力で膨らませるカルロスが今かと激突しそうな所まで発展した。
ユリアンはこれがチャンスだと思って向きを隠し通路側に変えて走り、ミシェルも彼女に続く。
すると背後から激しい風が吹き荒れ、それが二人にとっての追い風の様に素早く隠し通路の中に入る事に成功した。
ホッと一息を付きながらゆっくりと椅子を下ろすユリアンを見て、ミシェルは蒼く輝く刀―≪斬蒼刀≫を取り出して縄を斬り、リヴマージを解放させた。


「ありがとう。助かったわ…」

「一応そのセリフ言えって言われたのか?」

「あー…、いや、そういうワケじゃなくて…」


人質役としての言葉かと感じたミシェルだが、リヴマージは苦笑いを浮かべながら先程までいた部屋の向こう側に視線を送った。
カイザーとカルロスが放った技による風属性の魔力は残骸の様にまだ感じられるが、あのまま残っていたらいつか巻き込まれてしまうだろう。


「カイザー達の攻撃が激しかったから、早くあそこから出たいって思っててね…」


拘束された身としては危険極まりない状況、そう思わせる彼女の一言に、ミシェルもユリアンも苦笑いをしたのだった。
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