Story.01≪Chapter.1-1≫

彼らは四王座の中でも二強と称されており、仲の良い親友同士でもあり互いに競い合うライバル同士でもある。
この二人が手合わせとして戦っている姿を何度も見た事があり、激闘の末にレヴィンが全て勝利を収めている。
それでも同じ四王座であるエクセリオンとステファニーが認める生徒達だから、他の生徒達も参考の対象となるだろう。


―結局、俺達はこいつらの勝負に付き合わされてるだけか―


ミシェルは鼻で笑いながら視線をアンヘルに戻し、今回の任務(ミッション)の詳細を聞こうとすると…、


「というワケで、終了のチャイムまでリヴマージを助けなければ任務は失敗。そうなったら彼女とカイザーを除いて全員、放課後に反省文を書いて貰うよ。じゃ、頑張ってね!」


失敗した後の課題だけを言い残して彼は姿を消し、ほとんどの生徒達から文句の声が飛び交っていた。
アンヘルは自分達の担任にして武術学の教師なのだが、この様に何事にも細かい事を言わずに押し付ける形が多く、どうすれば良いのか分からずに困る生徒も続出している。


「あー、もう、結局こうなるのね。しかも失敗したら居残りで反省文って最悪…」

「チャイムが鳴るまでリヴを見つけて助け出せば良いんだろ?んな難しく考える必要はねぇ」

「でも相手はカイザーよ?ミシェルは戦った事ないよね?」


不安がるユリアンの最後の一言に、ミシェルは「あ…」と肝心な事に気付かされた。
学院内での公式戦で、四王座の中ではエクセリオンとステファニー、そしてレヴィンとの戦いでいずれも全戦全勝という好成績を残したが、唯一カイザーとは一度も刃を交わした事がない。
腕試しの組み合わせがたまたま彼と当たらないだけだと思っていたが、そういえば手合わせの経験のなかったのだ。
ピュアリティ・クラウンとの関わりを持つ者同士なのに、今はこうして近くにいるのにも関わらず…。


「おい、ミシェル、ユリアン。あまりモタモタすると時間だけが過ぎていくぞ」


するとこの部屋から出ようとしているエクセリオンの声を耳にし、そちらに向けば既に他の生徒達がリヴマージの救出の為に動き出しているではないか。
ミシェルとユリアンは慌ててこの場から移動し、早速彼女を助け出す手掛かりを探るのであった。

ミシェル達2年生の生徒が降り立ったこの場所は、現実の世界には存在しない。
ここは電脳空間(バーチャルスペース)と呼ばれる、科学技術により人工的に作られたコンピューターの中の世界と言えば分かりやすい。
現実の世界で一人の人物がパソコンによるCGでマップの作成を行い、保存されたデータをトランスポートに繋げる事で人類がそこへ足を踏み入れられる。
この空間での出来事は全て現実に反映され、体感した人類は経験と知識、そして体調もそのまま維持された状態で帰還する形となるのだ。
その為、≪サクレイド学院≫ではこうした任務(ミッション)の研修や戦闘訓練、生徒同士での対決のステージ提供として、この電脳空間が重宝している。
人工的に作られた世界だからこそ、何も聞かされずに入った者達にとっては何が起こるのかは分からず、仕舞いには…、


「出口っぽい扉も窓もねぇとは…」


制作者の手により、建物の中とはいえ窓と外への扉が存在しない場所に転送されたという事もよくあるパターンの一つ。
ユリアンと共に目だけで脱出経路を探るミシェルは面倒臭そうな表情を浮かべながら、リヴマージとカイザーがいそうな場所の捜索に戻る。


「リヴを助けるって、拘束から解放したらその時点で完了かな?」

「だと良いんだが、アンヘル先生その辺は全然言ってなかったからな…。もし終わりじゃなかったら、リヴを連れて最初の所に戻ってみるか。他に出口はなさそうだし。それに“カイザーと戦って勝て”って言われてねぇしな」

「うん、そうね。そうしましょ」

―ドカーン!!


ミシェルの提案にユリアンが頷いた途端、何処からか爆発の音がした。


「えっ?既に誰かが戦ってる?」

「たぶん違うと思うが、行ってみるか」


60分間の授業時間の内、残された時間は50分。
手掛かりを見つけたという声が聞かれない中で、こんなに早くリヴマージとカイザーがいる場所に辿り着けるとは思えないと感じつつ、ミシェルとユリアンは音がした方向へ駆け走った。
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