Story.01≪Chapter.1-1≫

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時刻は8時45分、≪サクレイド学院≫2階のトランスポートにて、ミシェルを含む30人の2年生が一人ずつ装置に乗り、灰色を基調としたスーツを身に纏いこげ茶のループタイを付けている黒髪の男性が操作する度に小規模の光に包まれて何処かへ転送する。
そしてまた一人乗っては転送という作業に、ユリアンは隣にいるミシェルにこっそりと話し掛ける。


「あれ…、一気に全員転送とか出来ないの?」

「電力(バッテリー)切れが怖いんだとよ」


ここのトランスポートの動力源は、半分が科学による電源で半分が雷属性の魔力によって起動される。
しかもこの学院全体の電源は屋上で設置されている太陽光発電と、多数の雷の属性石だけで動かされているのだから、一度あの装置が切れてしまっては充電の完了まで実に6時間掛かる様だ。
ユリアンの言葉通りだと如何せん、最大まで充電出来た状態でもギリギリ電力(バッテリー)切れになるかならないかの境目であり、行きは良くても帰りに支障が生じる為、こうして一人ずつ転送という手段を取っている。
一通りミシェルが説明すると、黒髪の男性がこちらに視線を向けてきた。


「次、ミシェルの番だよ」


黒に近い紫の瞳と目が合うとミシェルは歩き出し、装置の上に立つ。
そして男性の操作により小規模の光に包まれた瞬間、景色は白を基調とした部屋の中から打って変わり、ロウソクの灯火がいくつも付いた紫の壁と黒い床の広々とした部屋に足を踏み入れた。
立て続けに他の生徒もこの部屋に着き、ユリアンも姿を現した。


「えっ?何ここ…」


ユリアンは色合い的に明るい場所を予想していた様で、いかにも悪の集団が潜んでいそうな場所に顔を歪ませていた。
これが今回の研修の場所か、そう思っている内に今まで転送の操作をしていた黒髪の男性が現れた所で2年生全員の移動が完了したと思いきや…、


「おい、リヴとカイザーがいねぇぞ!?」


一人の男性生徒による一言で他の生徒がざわめき、ミシェルも辺りを見渡すが確かにあの二人の姿はなかった。
そこで「全員、注目!」と黒髪の男性が声を掛け、ここにいる全ての生徒達は一斉に彼に視線を送る。


「既に気付いていると思うけど、リヴマージとカイザーは今回の任務(ミッション)の研修で、ある役目を担って貰いました。その為、今いる場所にはいません」


ある役目、その言葉を聞くとミシェルは大体の予想がついて溜め息を漏らした。


「アンヘル先生、まさかとは思いますが…」


彼女から少し離れた位置にいるエクセリオンも予想がついた上で、黒髪の男性―アンヘル・オデッセイに確認を求めた。


「そう。今回の任務(ミッション)は、カイザーに捕らわれたリヴマージを救出する事!このステージの何処かにいるから、皆で協力して助け出してきてね!」


任務(ミッション)の研修となると、リヴマージが人質役でカイザーが犯人役になる事が多い。
同級生のレヴィンの家系が先祖代々神子を守護する一族であるから、こういう内容が集中しやすいというワケだ。


「何でいっつもカイザー様が悪役なんですのっ!?彼もリヴ様を守る四王座の一人なんでしょう!」


奥から青い瞳を持ち、金色に輝く髪を頭部の高い所で一つの団子にし、左右の髪を少し残して内側にカールしている女子生徒―エリザベート・F・ビューティリスが強く反論した。
彼女はアイドライズ島を統治するビューティリス家の令嬢であり、口調もお嬢様そのもの。
そしてカイザーに片思いを抱いている様だからこその反応だが、カイザー本人は気分を害している様子である。
喚いているエリザベートに対し、アンヘルは「分かってるけどねぇ」と一息をついてからこう続ける。


「これはカイザー本人の希望だよ。最近ロクに戦った事がないから、こうでもしないと本気にならないヤツがいるとか何とかでね」


それを聞き、ミシェルは近くにいるレヴィンに一度目を向けると、彼の表情は困惑そのものだった。
これは、カイザーがレヴィンと戦ってみたいとの表れか。
別に任務(ミッション)の研修でなくても良いと思われるのだが、レヴィン対カイザーとの勝負となれば興味が湧かないワケでもない。
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