Story.01≪Chapter.1-1≫

「私は、今まで有力貴族の方々やこの諸島に住む皆さんに何度も助けられ、支えられて生きて来ました。そして今度は、私が皆さんに恩返しをする番だと。その為の第一歩として、この世界最高峰の軍事学院、サクレイド学院に入学する事を決意しました」


入学式の時、このアイドライズ島で神子として崇められる存在のリヴマージの演説を、俺は退屈そうに聞いていた。

“穏健の神子”が戦いの地に赴く為の育成の場、≪サクレイド学院≫という軍事学院に入学するというニュースが飛び込んで来た当初は、確かに街中が大騒ぎになっていた。
それは≪クロスラーン≫だけでなくアイドライズ島全体、そして西の島―コマンダル島や南の島―ナチュラリアン島でも驚きの声が上がっていた。


だけど俺が驚いたのは、この出来事ではない。


入学式が終わった後、静かに帰路につこうとした時…、


「ミシェル、お袋から聞いた。お前、記憶を失くしたんだってな」


不意に背後から一人の声を耳にし、振り返ると風によって長い金髪が揺れる男子生徒がそこにいた。
赤い瞳でこちらを見る彼の姿に、何故か心臓の鼓動が大きく動いた様な気がした。


「お袋……って事は、お前がカイザーか。局長の息子の」


俺はどうにか平静を保ち、目の前にいる彼―カイザーにそう返すと「ああ」と頷いていた。
互いの自己紹介はまだだって言うのに、どういう理由(ワケ)か俺を知っている様な雰囲気を醸し出していた。
……名前はおそらく、ピュアリティ・クラウンの局員か関係者から聞いたのだろう。


「大丈夫。俺が守ってやるから」


だがこの一言で、心臓の大きな鼓動だけでなく脳裏にもノイズが走ったような感覚を覚えた。
……何だ?
こいつがこのセリフを言った時、“何か”が引っ掛かっている……?

そんな瞬間を覚えた、≪サクレイド学院≫の最初の一時だった…。
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