Prologue

☆☆☆

防衛局に運ばれてから9年後、ミシェルは≪サクレイド学院≫の2年生の生徒となり、教材を入れたリュックを背負い鞘に入れた愛用の刀を持って玄関でこげ茶のローファーを履く。


「ミシェル、もう行くんですか?」


そこへ声を掛けたのは、今でも面倒を見てくれているシェルマリンが両手を後ろにして立っていた。


「ああ、今日は任務(ミッション)の研修でいつもより早いんだ。昼飯は食堂で…」

「うふふ、そう言うと思いまして」


ミシェルは振り向きながら登校が早い理由を簡潔に話すと、シェルマリンは微笑みながら背中に隠していた二段形式の弁当箱を見せた。


「用意が早ぇな…」

「リコリスさん曰く、カイザーも同じ事を言っていたそうです。だからこっそり内緒でご用意しました」


カイザーと言えば、防衛局の局長であるリコリスの息子であり、彼も≪サクレイド学院≫に通う同級生である。
事前に今日の予定が耳に入るのは納得であり、ミシェルは苦笑いをしながらも一度リュックを下ろし、彼女から弁当箱を受け取った。


「何だ、そういうのは別に内緒にしなくたって良いのに」

「ごめんなさいね。昨日はちょっと忙しくて言い出せなかったんですよ」


シェルマリンも防衛局の医療部の部長として、局員や被害者の怪我を治す立場にある。
そしてその過程や病気の原因を探る役目も担っている為、この聖冥諸島で事件が起こると途端に忙しくなる。
それにより普段の会話が出来る機会が訪れなくなる事から、この様に二人の情報が共有していない時もあるのだ。
しかしミシェルはそんな事を気にせずに弁当箱をリュックに入れて背負い、改めて鞘に仕舞った刀を持ってドアに手を掛ける。


「んじゃ、行ってくる」

「いってらっしゃい。気を付けて下さいね」


シェルマリンの優しい声に、ミシェルは外に出て≪サクレイド学院≫へと歩き始めた。

☆☆☆

彼女が暮らす島、アイドライズ島は聖冥諸島の東にあり、登校する≪サクレイド学院≫は世界最高峰の軍事学院と云われている。
その場所にあるのが、“学院都市”と呼ばれる≪クロスラーン≫という街であり、ミシェルのみならず多くの軍事学院の生徒もここで暮らしているのだ。
白のワイシャツに藍色のズボン、その上に藍色のブレザーを羽織ってネクタイを装着し、白いソックスと黒の靴を履いている少年達と、白のワイシャツに藍色のスカートに藍色のブレザーを羽織り、リボンを装着して黒のハイソックスとこげ茶のローファーを履いている少女達が生徒に該当している。
学年ごとにネクタイは赤紫や水色、白のラインが入っており、リボンは赤紫と青、黒に分かれ、それぞれ1年生、2年生、3年生の証として身に付けており、ミシェルは2年生なのでリボンの色は青である。
また、アイドライズ島は約850年前に発生した分断戦争という、ここがかつて一つの大きな島だった時代に4人の魔女達が引き起こした戦争が原因で4つに分断された影響で、至る所に太古の遺跡が発見された。
その為、この街には考古学者や冒険家の姿もよく見られ、調査結果の報告や新たな遺跡を見つけたという話も耳にする事がある。


「おはよっ、ミシェル!」


登校の途中、後ろから元気が良さそうな少女の声がし、ミシェルは立ち止まって振り向くと、オレンジの瞳を持ち腰より少し上辺りでウェーブが掛かった金髪を一つにくくる少女が駆け寄って来た。
彼女の名はユリアン・ダイナヴィヴィッド、ミシェルの同級生であり親友だ。


「おー、おはよう」


ミシェルがそう返答するとユリアンは微笑みで返し、共に≪サクレイド学院≫へと足を運ぶ。


「今日の任務(ミッション)の内容聞いた?」

「いや、全然」

「だよねー。アンヘル先生ったら肝心なトコ言わない時あるモンだから…」


自分達の担任から研修の詳細が聞かされていないのを受け、ユリアンは溜め息を漏らした。
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