Prologue
ゆっくりと目を開くと、私はベッドで仰向けになっていた。
灰色の天井に白い電灯、ここは何処なのか、そして私は何故ここで眠っていたのだろうか。
「あ、気が付いたのね。」
すると右の方から女の人の声がし、視線をそちらに向けると優しそうな微笑みを向けた茶髪の中年の女性がいた。
「ここ…どこ……?」
「ここはピュアリティ・クラウンっていう防衛局の中よ。貴方は森の中で倒れていた所を、私の部下……っていうと分かんないかな。私の仲間がここまで運んでくれたのよ」
「なかま…?」
「ええ、そうよ。ところで、自分の名前…言える?」
名前、そう言われると普通はすぐにでも口に出せる筈なのだが…、
「なまえ…、えっと……わかんない」
私は、自分の名前すら言えなかった…というより、思い出せなかったと言った方が正しいかもしれない。
しかし女性は困った表情を見せず懐から取り出し、見せたのは小型のカードだった。
「じゃあこれ、何て書いてあるか読める?」
視線をそちらに移すと一文だけ書かれているが、これに難しい文字はなくすぐにでも読む事が出来た。
「……“ミシェル・N・ストライド”……」
「そう。これは貴方のポケットの中に入っていたのよ」
それはすなわち、自分の持ち物の一つという証だと気付かされた。
「貴方の名前は、ミシェル。ミシェル・N・ストライドっていうのよ」
女性にそう言われると、不思議と頭の中にあった靄(もや)がほんの少しだけ晴れた気がした。
これは、自分の名前を“思い出した”という感覚なのか。
「ミシェル……、ミシェル…」
「うん、うん」
「わたしの名前は、ミシェル」
それをインプットする様に連呼すると、ようやく自分を一つ取り戻したみたいで嬉しさあまりに笑みがこぼれた。
女性も釣られるように喜ばしくなり、互いに笑い合うと女性の方から『ピピピッ』と音が鳴った。
何やら小型の通信機を通して“誰か”と話しており、「分かったわ」と言ってそれを切ると、再び私の方に目を向けた。
「ごめんなさいね。私、ちょっとここを出るわ」
「え?」
「さっき言った仲間とお話に行くの。すぐに戻るわ。あ、その時は私の仲間を連れて来るから、それまでここで待っててくれる?」
「うん」
そうして女性はここを出て行き、残されたのは私一人だった。
仲間って一体誰だろう、本当はその人の様子を見に行きたい所だが、身体に痛みが走って思う様に動けない。
さっきの女性の仲間が運んでくれたのは聞いたが、怪我でもして動けなかったのだろうか。
……それは何処で?何が原因で?私が倒れた場所で何が起きていた?
自分の名前は思い出す事が出来た、しかし他にも“何か”がない事に気付く。
「わたし、何してたんだろう……」
ここに運ばれる前、自分が何をしていたのかすら分からなかったのだった。
これは私が…、“俺”が初めて見た場所と、防衛局ピュアリティ・クラウンの局長―リコリス・R・ヴァリエンティナと初めて言葉を交わしたささやかな出来事。
そして、5歳にして最初の記憶である…。
灰色の天井に白い電灯、ここは何処なのか、そして私は何故ここで眠っていたのだろうか。
「あ、気が付いたのね。」
すると右の方から女の人の声がし、視線をそちらに向けると優しそうな微笑みを向けた茶髪の中年の女性がいた。
「ここ…どこ……?」
「ここはピュアリティ・クラウンっていう防衛局の中よ。貴方は森の中で倒れていた所を、私の部下……っていうと分かんないかな。私の仲間がここまで運んでくれたのよ」
「なかま…?」
「ええ、そうよ。ところで、自分の名前…言える?」
名前、そう言われると普通はすぐにでも口に出せる筈なのだが…、
「なまえ…、えっと……わかんない」
私は、自分の名前すら言えなかった…というより、思い出せなかったと言った方が正しいかもしれない。
しかし女性は困った表情を見せず懐から取り出し、見せたのは小型のカードだった。
「じゃあこれ、何て書いてあるか読める?」
視線をそちらに移すと一文だけ書かれているが、これに難しい文字はなくすぐにでも読む事が出来た。
「……“ミシェル・N・ストライド”……」
「そう。これは貴方のポケットの中に入っていたのよ」
それはすなわち、自分の持ち物の一つという証だと気付かされた。
「貴方の名前は、ミシェル。ミシェル・N・ストライドっていうのよ」
女性にそう言われると、不思議と頭の中にあった靄(もや)がほんの少しだけ晴れた気がした。
これは、自分の名前を“思い出した”という感覚なのか。
「ミシェル……、ミシェル…」
「うん、うん」
「わたしの名前は、ミシェル」
それをインプットする様に連呼すると、ようやく自分を一つ取り戻したみたいで嬉しさあまりに笑みがこぼれた。
女性も釣られるように喜ばしくなり、互いに笑い合うと女性の方から『ピピピッ』と音が鳴った。
何やら小型の通信機を通して“誰か”と話しており、「分かったわ」と言ってそれを切ると、再び私の方に目を向けた。
「ごめんなさいね。私、ちょっとここを出るわ」
「え?」
「さっき言った仲間とお話に行くの。すぐに戻るわ。あ、その時は私の仲間を連れて来るから、それまでここで待っててくれる?」
「うん」
そうして女性はここを出て行き、残されたのは私一人だった。
仲間って一体誰だろう、本当はその人の様子を見に行きたい所だが、身体に痛みが走って思う様に動けない。
さっきの女性の仲間が運んでくれたのは聞いたが、怪我でもして動けなかったのだろうか。
……それは何処で?何が原因で?私が倒れた場所で何が起きていた?
自分の名前は思い出す事が出来た、しかし他にも“何か”がない事に気付く。
「わたし、何してたんだろう……」
ここに運ばれる前、自分が何をしていたのかすら分からなかったのだった。
これは私が…、“俺”が初めて見た場所と、防衛局ピュアリティ・クラウンの局長―リコリス・R・ヴァリエンティナと初めて言葉を交わしたささやかな出来事。
そして、5歳にして最初の記憶である…。