Story.07≪Chapter.1-7≫

「名刺みたいだな」

「『サンドラ・T・ヘイトロッド』…、聞いた事ありませんわね…」


どうやら≪ワーシップ≫にある新聞社―≪ライトデイ通信社≫の名刺だと知ると、エリザベートは一通り仲間達に書かれた人物の名前に関して心当たりがあるか聞いてみた。
レヴィンもエンドルも聞いた事がなく、現在休んでいる傭兵も知らないと思わせる様に首を横に振った。
カイザーもリヴマージも覚えがないと溜め息を漏らすと、アロガントは「もしかしたら…」と呟きながら倒れた“黒の砂地獄”に近付く。


「この女、“記者人生を奪われた”とか言っていたな…。有力貴族であるが故に、私の周りにジャーナリストがウロつく事もある。顔を見れば思い出すかもしれん」


彼女との戦いを思い返しつつ懐から黒い手袋を取り出しては嵌め、蝶の様な白い仮面と茶色いローブのフードの部分だけを取った。
すると黒髪のショートボブで見た目からすると20代後半くらいの顔立ちの女性だった事に、アロガントは「こいつは…」と少し目を見開いた。


「ビューティリス邸でリヴマージ様と会談した5年前、私の部屋に不法侵入していた女に似ているな…。そいつは確か、ライトデイ通信社の記者だとか言っていたが…まさかな…」

「そうなんですか?」

「確信は持てませんが、カイザーが拾った名刺の事もあります。これはライトデイ通信社にも事情を聞かねばなりませんな…」

「それより、道化会の仮面を持って平気なのか?」


5年前の事情を語る最中、カイザーが蝶の様な白い仮面を持つ事に不安視をしていた。
それを聞いたアロガントは「心配はない」と自信満々に続ける。


「今嵌めているこの手袋は特注でな、あらゆる魔力を遮断する仕組みになっているのだ。これを付けている間は私も魔力を発する事は出来ないが、常に魔力を発している物を何の影響もなく持つ事が出来る」


つまり触れただけでダメージを受ける、もしくは何らかの悪影響を及ぼすのを防ぐ為の道具(アイテム)なのか。
最初に裏切った二人は予め体内に変貌の魔法が掛けられていた為、持っていた仮面は何の仕組みもなかったが、“黒の砂地獄”が付けていた仮面はそうとは限らない。
こればかりはピュアリティ・クラウンや専門家に調べて貰う必要はあるが、敵が所持する品の取り合いは注意すべき。
とりあえずこの件は防衛局や≪サクレイド学院≫側に報告をとワイヤレスイヤホン式の通信機を起動するが、耳元からノイズが響き渡った。


「ここじゃ繋がらないな…」

「ひとまず外に出ましょう。傭兵さん、立てますか?」

「はい…。ご心配とご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした…」


傭兵はリヴマージの手を借りつつ立ち上がり、多少の痛みはあれど自力で歩く事は出来ていた。
しかしこの時、その人物は神子と有力貴族を守る立場でありながら彼女達との戦いを見ていただけで、自分達は何の役にも立てていないと落ち込み、顔を伏せていた。
それに気付いたカイザーは、やれやれと思いながらこっそりと声を掛ける。


「あんたの役割はまだ終わったワケじゃねぇ。これから魔物に化けられた二人の傭兵とかの事情聴取がある。…役立たずかどうかはそこから判断しろ」


そう、ここで道化会の情報をいくつか得ただけでまだ解決には至っていない。
黒幕であろう“仮面の悪魔”に関しては何もなかった事もあり、後の事情聴取次第では一気に近付く可能性があるからだ。
傭兵は彼の言葉からそう感じ取ったのか、顔を上げて「はい」と返すだけに留めた。
そうして裏切りと犠牲を経てレヴィン達7人は地下道を脱出し、アロガントはピュアリティ・クラウンにここを詳しく調査するよう指示したのだった…。

☆☆☆

時刻は18時40分、時を同じくして≪サクレイド学院≫にも道化会絡みの事件が発生したのを、レヴィンとリヴマージとエンドルが傭兵を≪シックキラー総合病院≫まで送った直後に耳に入った。
この件に関しては、その時間まで残っていたミシェルとバラッドとアンヘルが3人の会員を確保して解決に至り、会員以外の怪我人は出なかったとの事だった。
それを聞くと、またミシェルが誰の許可を得ずに攻撃したのかと思ったが、担任が側にいる状況だとしたらお咎めなしになりそうか。
これはまた明日になって事情を聞くしかないと感じた3人は、今日の所は真っ直ぐ帰る事にして≪ワーシップ≫に足を運んだのだった…。
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